企業価値担保権ってなに??
最近、「企業価値担保権」という言葉を金融の世界で耳にする機会が増えてきました。簡単に言えば、会社の事業全体の価値を担保として融資を受けられる仕組みです。
これまで日本の銀行融資は、かなりシンプルでした。
担保として見られてきたのは主に次のようなものです。
・不動産
・機械設備
・売掛金
・経営者の個人保証
つまり、目に見える資産があるかどうかが融資判断の大きなポイントだったわけです。
しかし、今の企業は必ずしもそうとは限りません。
例えば、IT企業やコンサル会社、サービス業などは、不動産や設備を多く持っているわけではありません。
それでも、実際には高い収益力を持っていたり、強い顧客基盤を持っていたりします。
・独自の技術
・顧客との長年の取引関係
・ブランド
・ノウハウや人材
こうしたものは企業の大きな価値ですが、従来の担保制度ではなかなか評価されにくい部分でした。
そこで考えられているのが企業価値担保権です。
この制度では、不動産などの個別資産ではなく、企業が行っている事業そのものの価値を担保として評価することが想定されています。
イメージとしては「会社を丸ごと担保として見る」という考え方に近いものです。
実際、企業価値を評価する際には、銀行側の評価項目として例えば次のような要素が挙げられています。
・ビジネスフロー
・ビジネスモデルの特徴
・価値創造の流れ
・業界動向
・将来の展望
一見すると、「企業の実態をかなり深く見てくれそうだ」と感じるかもしれません。
確かに、単に担保の有無を見るよりも、事業そのものに目を向けるという意味では前向きな制度と言えるでしょう。
ただし、ここで一つ注意しておきたい点があります。それは、これらの評価項目の中には、具体的な数値計画や収益見通しといった項目が必ずしも明確に含まれているわけではないということです。
つまり、企業価値を評価すると言っても、「最終的にいくらの価値として評価されるのか」という点は必ずしも分かりやすいものではありません。
そう考えると、現時点ではこの評価がそのまま担保価値として明確に算定されるかというと、まだ不透明な部分が多いと言わざるを得ません。 この制度は確かに新しい試みではありますが、実際の融資の現場でどのように運用されていくのかは、まだこれから見えてくる部分も多いと言えるでしょう。

従来の担保制度との違い
企業価値担保権を理解するためには、これまでの銀行融資の考え方と比べてみると分かりやすくなります。
従来の銀行融資は、基本的に個別の資産を担保に取る仕組みでした。
代表的なものは次のようなものです。
・土地や建物を担保にする不動産担保
・売掛金を担保にする債権担保
・機械や在庫を担保にする動産担保
つまり、「この資産はいくらで換金できるのか」という視点で担保価値を見ていたわけです。金融機関にとっては、もし返済が滞った場合でも担保を処分することで回収の見通しを立てやすく、リスク管理がしやすいというメリットがあります。
一方、企業価値担保権はこの発想とは少し違います。担保の対象になるのは個別の資産ではなく、冒頭で挙げた企業が行っている事業そのものです。
こうした項目をもとに、企業の事業価値を総合的に見ていくという考え方です。
ただし、ここで気をつけたいのは、評価の中身がかなり定性的な要素に寄っているという点です。例えば、ビジネスモデルや価値創造の流れ、業界動向といったものは確かに重要ですが、それを「担保価値としていくらなのか」という形で明確に金額化するのは簡単ではありません。
しかも、評価のフォーマット自体は銀行側に用意されているため、企業側が何も説明しなければ、担当者が理解できる範囲の情報だけで評価が進んでしまう可能性もあります。
中小企業の経営者の中には、「決算書を出して、事業の話を少し説明すれば銀行は分かってくれるだろう」と考えている方も少なくありません。
しかし実際には、担当者が事業の仕組みを十分に理解していなければ、その企業の強みはうまく伝わらないまま評価されてしまうこともあります。
そうなると、担当者の頭の中のイメージだけで「この会社はこういう会社だ」という認識が作られ、それが将来の融資スタンスにまで影響してしまう可能性もあります。
企業価値を評価するという仕組みは一見前向きに見えますが、裏を返せば、企業の説明力によって評価が左右される側面もあるということです。
その意味では、企業価値担保権は単に担保の種類が増えるというだけではなく、企業と金融機関のコミュニケーションのあり方にも変化を求める制度と言えるのかもしれません。

企業価値をどう伝えるかがこれまで以上に重要になる
企業価値担保権という制度が広がっていくとすれば、企業にとって大きく変わるのは「銀行への説明の仕方」かもしれません。これまでは、極端に言えば担保があるかどうかが融資判断の大きなポイントでした。不動産があれば融資は進みやすく、担保が少なければ慎重になる、という比較的わかりやすい構図です。
しかし、企業価値を評価するということになると話は少し変わります。銀行は企業の事業を見て判断することになりますが、その材料になるのは次のようなものです。
・ビジネスフロー
・ビジネスモデルの特徴
・価値創造の流れ
・業界動向
・将来の展望
・営業店としての所感
つまり、企業の事業が「どのように価値を生み出しているのか」を総合的に見ていくことになります。ただし、これらの項目は必ずしも数値で明確に示されるものばかりではありません。どちらかというと定性的な要素ばかりで、見方によって印象が変わります。
そのため、企業側が自社の事業をきちんと説明しなければ、銀行側の理解が不十分なまま評価が進んでしまう可能性があります。
実務の現場では、経営者が銀行に対して
「決算書は提出したし、あとは口頭で少し説明した」
というケースが多くあると思います。
しかし、それだけでは事業の強みやビジネスモデルが十分に伝わっていないことも多いのが実情です。
もし担当者が事業の仕組みを理解できていなければ、担当者の頭の中で作られたイメージだけで会社の評価が固まってしまうこともあり得ます。
そしてその評価は、知らないうちに今後の融資姿勢や金融機関のスタンスに影響している可能性もあります。
企業価値担保権の評価には銀行側のフォーマットが存在する以上、そのフォーマットに沿って企業価値を理解してもらう努力は企業側にも必要になります。
つまり、単に決算書を提出するだけではなく、
・自社のビジネスモデルは何か
・どのように利益を生み出しているのか
・どこに強みがあるのか
・将来どう成長していくのか
といったことを、銀行が理解できる形で整理し、数字も交えながら伝えることが重要になります。
企業価値を担保として評価するという考え方は一見すると企業にとって追い風のように見えます。
しかし実際には、自社の事業価値をきちんと説明できる企業と、そうでない企業の差が、これまで以上に表れてくる可能性もあるのです。

制度が定着するには、相当な期間がかかる
ここまで見てきたように、企業価値担保権は、企業の事業そのものを評価して融資を行うという意味で、これまでの担保中心の融資とは発想が大きく異なる制度です。
うまく機能すれば、不動産などの担保資産を多く持たない企業でも、事業の強みや将来性を評価してもらい、資金調達の可能性が広がることが期待されています。
ただし、実際の融資の現場でこの考え方が広く定着するかというと、すぐに大きく変わるとは考えにくいと見ています。
日本の金融機関はこれまで長い間、
・不動産担保
・経営者保証
・信用保証協会の保証
といった枠組みを前提に融資を行ってきました。
さらに、かつての金融検査マニュアルの影響もあり、担保や保全の確実性を重視する審査の考え方は、長年の実務の中で金融機関の体質として定着しています。
こうした背景を考えると、「企業価値を評価して融資する」という考え方が、営業店レベルの実務まで浸透するには相当な時間がかかると考えられます。
制度としては整備されても、実際の審査の現場では従来型の担保や保証が引き続き重視される、という状況はしばらく続くかもしれません。
評価そのものを行なう銀行の担当者や担当部が、その業界に精通しているかどうかも大きく影響しますが、残念ながらそのスキルが身についているかと言われれば大きく疑問が残ります。
また、企業価値担保権の評価項目を見ても、ビジネスフローやビジネスモデル、業界動向、将来の展望といった要素が中心で、必ずしも明確な数値評価に直結する仕組みになっているわけではありません。
そうなると、その評価が具体的にどの程度の担保価値として扱われるのかは、まだ見えにくい部分もあります。
現時点では、従来の不動産担保のように「いくらの担保価値がある」と明確に算定できるものとは性格が異なると言えるでしょう。
とはいえ、企業価値という視点で企業を見ようとする流れ自体は、今後少しずつ広がっていく可能性があります。
むしろ重要なのは、この制度の有無にかかわらず、金融機関が企業を見るときに「事業の中身」がより重視されていく点です。
ですので、企業側を従来のことを継続して行うとか、経費を削減して利益体質に持っていくとか、そういうことよりも事業をどう進化させていくかという思考も常にもっておかねばならないというわけです。
その意味では、企業側も単に決算書を提出するだけではなく、自社のビジネスモデルや強み、将来の展望を整理し、金融機関に理解してもらう努力がこれまで以上に重要になります。

企業価値担保権はまだ始まったばかりの制度ですが、銀行と企業の向き合い方を考えるきっかけにはなりますが、この制度があるから借りやすくなるという考えは避けた方が良いでしょう。
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