「利益は出ているのに借りにくい」…確定申告書の“ある項目”でつまずく個人事業主が多い
元入金・事業主貸・事業主借は“利益”ではなく“境界線” 3つを一言で整理する
まず大前提として、元入金・事業主貸・事業主借は、売上や経費のように「儲かった/損した」を表す科目ではありません。
この3つは一言で言うと、「事業のお財布と、生活(家計)のお財布の境界線を、帳簿の中に作るための科目」です。
ここが腹落ちすると、確定申告書も帳簿も一気に読みやすくなります。では、3つをそれぞれ“超シンプルに”整理します。
元入金:事業の“体力”+これまで積み上がった土台
元入金=「この事業は、どれくらいの元手(自己資金)で始まって、今までどう積み上がってきたか」
個人事業は法人のような「資本金」がありません。その代わりに、事業の土台として扱われるのが元入金です。
開業時に手元資金を事業に入れたなら、それは“元手”ですし、過去の利益が残っていればそれも土台になります。
ただし実務では、元入金は「自分で好きに増減させる科目」というより、帳簿の整合性を取る“土台の残高”として見られがちです。会計ソフトの初期設定や期首残高の入れ方がズレると、元入金が不自然な数字になって「なんかよく分からないけど合ってる?」状態が起きます。
事業主貸:事業から生活へ“出ていった”お金(事業→家計)
事業主貸=「事業のお金を、生活や個人用途で使った(または個人的に引き出した)」
例を挙げると分かりやすいです。
- 事業用口座から生活費を引き出した
- 事業用カードで家族の食事を払った
- 事業の現金からプライベートの支払いをした
これらは経費ではなく、“個人が使った”扱いなので、事業主貸になります。
ポイントは、事業主貸が増える=利益が減る、ではないということ。利益は売上と経費で決まります。事業主貸は「利益の後に、そのお金を個人が持っていった」というイメージです。
事業主借:生活から事業へ“入れてくれた”お金(家計→事業)
事業主借=「生活のお金で事業の支払いを立て替えた/個人から事業に入金した」
よくあるのはこのパターンです。
- プライベート口座から仕入代金を振り込んだ
- 個人のクレジットカードで広告費を払った
- 手持ち現金で事業の備品を買って、まだ精算していない
これも利益を増やす科目ではなく、事業が家計に“助けてもらった”記録です。
なぜここが混乱するのか?(原因はだいたい3つ)
- 口座・カードが分かれていない(混ざる設計)
混ざると、毎月“仕分け作業”が発生して、事業主貸/借が膨らみやすくなります。 - 「とりあえず事業主貸」に逃げる
本当は経費なのに領収書が見つからない、内容の説明がしにくい、などで事業主貸に入れると、帳簿は一見キレイでも「事業の実態」が見えなくなります(銀行が嫌う“読めない帳簿”になりがち)。 - 元入金(期首残高)の考え方が曖昧
前年からのつながりが取れていないと、元入金が極端に増減したり、マイナスになったりします。すると銀行側は「自己資金感が分からない」「これ、どういう状態?」となります。

銀行はこう見ている!元入金・事業主貸・事業主借から“資金繰りのクセ”と“自己資金感”をチェックする
銀行が確定申告書や帳簿を見るとき、利益(所得)だけを見て「はいOK」とはなりません。特に個人事業主の場合は、法人よりもなおさらです。理由はシンプルで、「事業と家計が混ざりやすい=実態の見極めが難しい」から。
そこで銀行が頼りにするのが、元入金・事業主貸・事業主借の動きです。ここは“科目の説明”というより、銀行側の頭の中で起きている読み取りを知るのが一番早いです。
1) 事業主貸が多いと「資金が抜けやすい=返済余力が読みづらい」
事業主貸は、事業のお金が生活へ出ていった記録です。
銀行がここで見たいのは「生活費を引いても返済原資が残るか」=キャッシュの残り方です。
事業主貸が大きい・毎月バラつく・説明がつかない形で膨らむと、銀行の見立てはこうなりがちです。
- 利益は出ているが、手元からお金が抜けている可能性
- 返済に回すお金が“固定で残る”設計になっていない
- 資金繰りが厳しくなると、追加で引き出してしまうかも
ここで重要なのは、「事業主貸が多い=悪」ではありません。
問題になるのは、事業主貸が“生活費の計画性”として見えないこと。たとえば毎月の役員報酬のように定額で引き出しているなら、銀行は読みやすい。一方で、月によって10万→80万→5万…のように波があると、「資金管理が場当たり的?」と疑われやすいわけです。
改善の型(運用ルール)
- 生活費は「毎月定額」を事業口座から移す(“給料日”を作る)
- それ以外の個人利用は極力しない(したらメモを残す)
これだけで、事業主貸が“説明できる数字”に変わります。
2) 事業主借が多いと「家計が事業を支えている=事業単体の体力が不透明」
事業主借は、家計から事業へ入ってきた記録です。
銀行はここから、「事業が自走しているか/家計の輸血で回っているか」を見ます。
事業主借が増え続けると、銀行側はこう推測します。
- 仕入や経費を、生活資金で立て替えている
- 運転資金が足りず、資金繰りが綱渡り
- “見かけの売上”はあるが、現金が追いついていない
これも誤解が多いのですが、事業主借が出ること自体は普通です。開業初期や投資期ならむしろ自然。ただし、銀行が嫌がるのは「事業主借が多いのに、理由が説明できない」状態です。
つまり、資金不足なのか、単なる立替の整理不足なのかが見えないと、審査は保守的になります。
改善の型(運用ルール)
- 立替は“精算ルール”を決める(毎月末に必ず清算)
- 可能なら事業専用口座・専用カードへ寄せる(立替自体を減らす)
- 事業主借が増えた月は「何に使ったか」を一行で残す(広告投資、仕入増、設備投資など)
銀行は、理由が分かれば納得します。「説明できる=管理できている」と評価されやすいからです。
3) 元入金が不自然だと「自己資金感が読めない=信用の土台が薄く見える」
元入金は、個人事業における“資本金っぽい土台”です。
銀行はここを、ざっくり言うと「この事業、自己資金でどれくらい踏ん張れる?」の目安として見ます。
元入金が極端に増減していたり、マイナスになっていたりすると、銀行側は次のように感じます。
- 期首残高が合っていない(帳簿の信頼性が低いかも)
- 事業と家計の境界が崩れている
- 自己資金の実態が掴めず、融資設計がしづらい
特に、「元入金がマイナス」は要注意です。必ずしも即NGではありませんが、銀行に説明が必要になります。「事業のお金より個人引き出しが多い状態」で、資金繰りの余裕が薄く見えやすいからです。
改善の型(実務の整え方)
- 期首残高は前年と必ずつなげる(元入金・預金・未払等の整合性)
- 開業時に入れた元手・設備投資の資金源を整理しておく
- 「元入金がどう増減したか」を説明できるメモを持つ(相談時に強い)

銀行が最終的に見たいのは「数字の良し悪し」より“説明力”
融資面談で強いのは、完璧な帳簿の人というより、次を言える人です。
- 「生活費は毎月○万円にしていて、事業主貸はその範囲です」
- 「立替は月末に精算しているので、事業主借は一時的です」
- 「元入金は前年からつながっていて、自己資金の土台はこの通りです」
こういう説明ができると、銀行は“返せる設計”を描きやすくなります。結果として、希望額や条件の交渉もしやすくなる。ここが現場感です。
よくあるNG→一発で印象が変わる修正ポイント(超実務)
- NG:生活費も事業費も同じ口座・カード
→ 修正:事業専用に寄せる/最低でも「引落口座」だけ分ける - NG:不明な支出を全部事業主貸
→ 修正:内容が事業なら経費、個人なら事業主貸。迷う支出はメモで説明可能に - NG:立替が溜まりっぱなし
→ 修正:月末精算ルールで事業主借を“短期で戻す”
申告書は「提出書類」ではなく「信用資料」|融資に強い形へ整えるなら、決算書戦略から逆算しよう
ここまで見てきた通り、元入金・事業主貸・事業主借は、会計ソフトの“おまけ項目”ではありません。個人事業主にとってはむしろ、銀行が「この人のお金の管理は大丈夫か」を判断するための重要な手がかりになっています。

- 元入金:事業の土台(自己資金感・帳簿の整合性)
- 事業主貸:事業→生活への出金(お金が抜けるクセの見え方)
- 事業主借:生活→事業への入金(家計依存か、自走しているか)
そして銀行が本当に見たいのは、「科目が多い/少ない」という表面的な話ではなく、
“数字の背景を説明できる状態かどうか”です。言い換えると、申告書は税務署に出すためだけの書類ではなく、あなたの事業の信用を裏づける資料でもある、ということです。
融資に強い「最小の整え方」3ステップ
① 生活費を“定額”にして、事業主貸を読める数字にする
- 毎月の生活費は「○日」に「○万円」と決めて移す
- それ以外の個人支出は、できるだけ事業口座から出さない
→ これだけで銀行は「管理されてる」と感じやすくなります。
② 立替は“月末精算”で事業主借を短期で戻す
- 個人カードで払った事業経費は月末にまとめて精算
- 「何の立替か」を一行メモ(広告費、仕入、外注費など)
→ 事業主借が“慢性化”しなくなり、資金繰りの印象が良くなります。
③ 元入金は前年とつなげて、土台の信頼性を上げる
- 期首残高(預金・未払・借入など)と合わせて整合性を取る
- 元入金の増減理由を説明できるようにしておく
→ 「帳簿の信頼性」が上がり、追加資料の要求も減りやすいです。
“銀行に伝わる形”にしておくと、融資の話が早い
実務では、銀行はこういう状態を好みます。
- 事業と家計が分かれている(最低限、引落口座・カードが整理されている)
- 事業主貸/借が暴れていない(暴れていても理由が説明できる)
- 元入金が不自然でない(前年からつながり、土台が読める)
ここが整うと、面談でのやり取りが変わります。
「何に使ったんですか?」「生活費はどれくらいですか?」といった質問に、数字で答えられるようになるからです。結果として、融資金額・条件・スピードの面で“損しにくい”状態を作れます。
もし今「どこから直すべきか分からない」なら、設計から一緒に整えるのが近道です
元入金・事業主貸・事業主借のズレは、単発の仕訳ミスというより、口座・カード・精算ルールの設計から生まれていることが多いです。
なので、帳簿を直すより先に「混ざらない仕組み」を作ってしまった方が、来年以降が圧倒的にラクになります。

- 銀行提出を見据えた“読まれる帳簿”にしたい
- 事業主貸/借が多くて、金融機関にどう説明すべきか不安
- 融資に向けて、申告書(決算書)の見え方を整えたい
顧問税理士に任せきりにするのではなく、「事業主貸は少なく元入金は厚く」を意識して確定申告に臨みましょう。
外部CFO | LIFE CREATE サービス内容についてはこちらをご覧ください。



コメント