「黒字=融資OK」ではない、銀行は決算書で“融資方針”を決めている
「うちは黒字なんです。なのに追加融資が出にくい」「前年より利益が増えたのに、金利や条件が良くならない」経営者の方から、こうした声を聞くことは少なくありません。
数字に自信がある・ないに関係なく、ここで一度知っておいてほしい前提があります。銀行は“黒字か赤字か”だけで融資を決めているわけではなく、毎年提出する決算書をもとに社内のルールに沿って分析・評価し、融資方針(出す/出しにくい、条件、金利、期間など)を決めているということです。

ここでいう評価が、いわゆる信用格付(スコアリング)です。
ざっくり言えば、銀行の中にある「採点表」で会社の体力を点数化して、ランク分けする仕組み。もちろん担当者はあなたの事業を理解しようとしますし、面談の印象や事業計画も見ます。ただ、実務の現場では最後に「決算書から作られる点数」によって、融資のスタンスがブレにくく固まる、この構造があるのは事実です。
そして厄介なのが、黒字=高得点とは限らない点です。たとえば同じ黒字でも、利益が出ているのに手元資金が薄い会社、借入が増えすぎて返済余力が弱い会社、売掛金や在庫が膨らんで資金繰りが重い会社は、銀行の採点表だと評価が伸びにくいことがあります。
逆に言えば、派手な増益はなくても、財務の形が整っていて「倒れにくく、返せる」会社は、融資が通りやすくなる。銀行の判断軸は、まずここにあります。
だからこそ結論はシンプルです。決算書は“納税計算のためだけ”に作るものではなく、融資のための資料でもある。評価される指標を意識して作るほど、融資の受けやすさや条件は多少なりともハンドリングできる。もちろん粉飾や無理な操作の話ではありません。「お金の残し方」「借入の持ち方」「資金繰りの見え方」を整え、銀行が読み取る数字を良い形にしていく、という現実的な話です。
銀行の“採点表”はシンプルに3分類
信用格付と聞くと「難しそう…」と身構えがちですが、銀行が決算書から見ているポイントは、突き詰めると次の3つに整理できます。
①体力(倒れにくさ)②稼ぐ力(利益を出す力)③返す力(借金を返し続けられる力)。
この3分類を頭に入れるだけで、決算書の読み方も、作り方の優先順位も一気に分かりやすくなります。

①体力(BS):会社の“耐久力”を見る
体力は、主にBS(貸借対照表)から読み取ります。BSは、ざっくり言えば「会社の体格表」です。ここで銀行が気にするのは、極端に言えば“自前の体力がどれだけあるか”。
代表が自己資本比率。難しい言葉ですが意味はシンプルで、「会社の資産のうち、借金ではなく自分のお金(純資産)がどれくらい占めているか」。自己資本比率が高いほど、赤字になった年があっても耐えやすい。
逆に低いと、少しの環境変化で資金繰りが苦しくなり、銀行の警戒感が上がります。
もう一つが流動比率(短期の支払い余力)です。これは「近いうちに現金化できるもの(流動資産)」が「近いうちに払う必要があるもの(流動負債)」をどのくらいカバーできているか。
ここが弱いと、黒字でも“支払いが回らない”可能性が出てくるので、評価は伸びにくくなります。
ポイントは、利益(PL)だけでは体力は増えないこと。利益が出ても、役員報酬で外に出ていったり、在庫・売掛金に形を変えて現金が残らなかったり、借入返済で薄くなったりすると、体力は強くなりません。銀行はそこを見ています。
②稼ぐ力(PL):事業の“地力”を見る
次が稼ぐ力で、こちらはPL(損益計算書)が中心です。PLは「今年どれだけ稼いで、どれだけ残ったか」の成績表。銀行が見たいのは、単に売上が大きいかではなく、利益を安定して出せる構造かです。
代表例は売上高経常利益率。要するに「売上に対して、営業利益がどれくらい残るか」。ここが高くて安定していれば、価格競争に巻き込まれにくく、多少の逆風でも踏ん張れる会社だと評価されやすい。
一方、売上が伸びていても利益率が薄いと、原材料高や人件費増で一気に苦しくなるリスクがあり、点数は伸びにくくなります。
また、増収率・増益率のような「伸び」も見られますが、伸びていれば無条件に良いというより、伸び方に無理がないか(一時的な特需、値引きで作った売上、外注費の先送り等)もセットで見られます。ここは後半で「見せ方」の話につながります。
③返す力(BS×PL/CF):融資判断の“核心”
最後が、銀行が一番神経を使う返す力です。これはPLだけでもBSだけでも判断できません。借入(BS)に対して、利益やキャッシュ(PL/CF)がどれだけ出ているか、つまり「返済に回せる余力」を見ます。
ここで出てくるのが、有利子負債償還年数やインタレスト・カバレッジ(利払い余力)のような指標です。言い換えるなら、
• 借金は“身長”に対して高すぎないか
• 利息や元金を払っても、事業が回るだけの“息継ぎ”ができるか
というチェック。
この返す力が弱いと、黒字でも「これ以上貸すと返済が重くなる」と判断され、融資スタンスが慎重になりやすい。逆に、ここが強い会社は、多少利益がぶれても「返済は回る」と見なされ、資金需要が出たときに話が早くなります。
ここまでのまとめです。信用格付は、難しいテクニックではなく、①体力(BS)②稼ぐ力(PL)③返す力(返済能力)の3つの観点で、決算書の数字を“採点表”に当てはめているだけなんです。
だから作り方が大事!点数に効く指標を“崩さない”決算書の整え方
ここまでで、銀行の採点表が「①体力(BS)②稼ぐ力(PL)③返す力(返済能力)」の3つでできている、という全体像は掴めたと思います。
ここからが実務の本番です。決算書は、同じ事業をしていても“数字の出方”で評価が変わり得ます。大事なのは小手先の操作ではなく、銀行が点数化する指標を「悪化させない」「説明できる状態にする」こと。
具体的に、落とし穴になりやすいポイントを順番に整理します。

1) 体力(BS)を崩しやすい“あるある”と対策
体力の指標(自己資本比率・流動比率)は、日々の運転資金のクセで崩れます。特に多いのがこの3つです。
• 売掛金が増えっぱなし
売上が伸びるほど売掛も増え、手元資金が薄くなります。黒字なのに資金繰りがきつい会社の典型です。
→ 対策は「回収条件の見直し」「請求・検収の前倒し」「滞留債権の棚卸し」。銀行には“売上は増えているが回収サイトが長い”を説明できるだけでも印象が変わります。
• 在庫(棚卸資産)が膨らむ
在庫は会計上は資産ですが、現金ではありません。過剰在庫は流動性を悪化させ、最悪は評価損にもつながります。
→ 対策は「適正在庫の基準」「滞留品の処分方針」「値引き販売を含む回転計画」。ここを数字で語れると“管理できている会社”になります。
• 役員貸付金・仮払金が放置される
これは銀行がかなり敏感に見ます。理由は簡単で、実質的に会社のお金が社外に出ていて戻りが見えないから。
→ 対策は「早期解消の計画(返済スケジュール)」「発生させない運用ルール」。この“解消方針があるか”が評価を分けます。
体力は一言で言うと、「現金が残る形」になっているか。ここが整うと、自然に自己資本・流動性も改善方向に向かいます。
2) 稼ぐ力(PL)を評価される形にするコツ
稼ぐ力は「利益が出ているか」だけではなく、利益の“質”と“再現性”が見られます。ここでやりがちな落とし穴は次の通り。
• 売上は伸びたが利益率が落ちた
値引きで売上を作ると、売上高営業利益率が下がります。銀行目線では「売上はあるが守りが弱い」状態。
→ 対策は「粗利が取れる商品・案件に寄せる」「値上げの根拠(原価上昇、人件費)を整理する」「不採算取引の見直し」。数字が苦手でも、“どこで儲かっているか”だけは言語化しておくと強いです。
• 一時的な利益(補助金、固定資産売却益等)で黒字に見える
こうした利益は翌年再現しにくいため、銀行は“本業の力”としては割り引きます。
→ 対策は「本業利益と一時利益を分けて説明する」。決算書の注記や別紙で補足するだけでも、評価の納得感が上がります。
• 利益は出たが、販管費の増加理由が説明できない
採用・広告・外注など、将来のための投資ならプラス材料になり得ますが、説明がないと単なるコスト増に見えます。
→ 対策は「何に使って、何がどう改善したか(もしくは改善する予定か)」を短くまとめる。銀行は“理由がある費用”を嫌いません。
3) 返す力(返済能力)を傷つけない「借入の持ち方」
格付に最も響きやすいのが返す力です。ここは、借入を増やす局面で特に差が出ます。
• 運転資金と設備資金が混ざっている
本来短期で回る資金(運転)を長期借入で穴埋めし続けると、借入残高が膨らみ、償還年数や返済負担が悪化します。
→ 対策は「資金使途を分ける」「設備は耐用年数に合わせた期間で借りる」「運転資金は増減理由を説明する」。この整理だけで、銀行側の見立てが変わります。
• 返済原資(キャッシュの出どころ)が説明できない
銀行が知りたいのは「どこから返すか」です。利益だけでなく、入金サイト・回転・投資計画を含めたキャッシュの流れが見えないと慎重になります。
→ 対策は「簡単な資金繰り表」「借入後の返済イメージ(ざっくりでOK)」を用意する。数字に不慣れでも、ここは“図”にすると伝わります。
• 借入は増えたのに、利益・キャッシュがついてこない
これが続くと、償還年数や利払い余力が悪化し、格付は上がりにくくなります。
→ 対策は「借入で何を改善し、いつから利益(キャッシュ)が増えるか」を計画に落とす。設備投資なら稼働時期、人員投資なら立ち上がり期間を明示するだけで十分です。
4) “数字以外”で点数を落とさない最低限の整え方
最後に、定量評価に直結しやすい話として、銀行は「数字の信頼性」も見ます。
• 月次試算表が出るのが遅い
• 期中の着地見込みが説明できない
• 在庫・売掛の管理が属人的
こういう状態だと、同じ数値でも慎重に見られがちです。完璧な管理会計までは不要でも、「月次で状況を把握している」だけで印象はかなり変わります。
ここまでの要点は、「格付に効く指標は変えられないが、指標を悪化させる行動は減らせる」ということです。
次の「結」では、難しいことを全部やろうとせず、まず3つだけ整えるチェックリストに落として、明日からの動き方(銀行への伝え方・専門家の使い方)までまとめます。
まずここだけ押さえる!評価が上がれば“調達力”が上がり、財務基盤も強くなる
ここまで読んでいただくと、信用格付(銀行評価)が「なんとなくの印象」ではなく、決算書の数字から作られる“採点表”であることが見えてきたと思います。そして大事なのは、銀行評価が高くなる=資金調達力が上がるという点です。必要なときに必要な金額を、よりスムーズに、より良い条件で調達できる。これは攻めの投資(採用・設備・新規出店)だけでなく、守り(急な売上減、原価高騰、入金遅れ)の局面でも会社を支えます。

もう一つ押さえておきたいのは、評価が高い会社=銀行に“好かれている会社”というより、財務基盤が強い会社だということです。自己資本が積み上がり、資金繰りが安定し、借入をしても返せる力がある。
つまり、格付アップは見栄えの話ではなく、会社の体質改善そのもの。だからこそ、無理に数字を作る必要はありません。やるべきことは、「点数が落ちる要因を潰し、説明できる状態にする」ことです。
とはいえ、全部を一気に完璧にする必要はありません。まずは次の3つだけで十分です。
• ①体力(BS):自己資本が減る動きを止める/流動性を崩す原因(売掛・在庫・役員貸付)を棚卸しする
• ②稼ぐ力(PL):利益率が落ちる理由を言語化し、粗利を守る打ち手(値上げ・不採算取引の見直し)を決める
• ③返す力(返済能力):借入の目的を分け、返済原資(キャッシュの流れ)を“短い説明”で出せるようにする
この3点が整うと、銀行の採点表で評価される主要指標が崩れにくくなり、結果として格付が改善しやすくなります。そして格付が上がれば、調達力が上がり、資金繰りの選択肢が増え、財務基盤もさらに強くなるこの好循環が回り始めます。
以上のように、銀行がどのような目線で決算書を見ているかということが分かれば、企業側の打ち手も変わってくるのではないでしょうか。
また、上記の説明はいわゆる「定量評価」というものです。銀行によっては「定性評価」との割合を50%ずつとしている場合もありますが、融資審査の際はやはり「定量評価」が最も注視されます。
「定性評価」についてはまた別のコラムで取り上げたいと思います。
もし「うちのどこがボトルネックか分からない」「銀行にどう説明すれば評価につながるのか不安」という場合は、決算書と資金繰りの状況を一緒に整理するだけでも前に進みます。
評価される指標に沿って、決算書の“作り方・見せ方・伝え方”を整える。
これが、融資に強い会社づくりの最短ルートです。必要なら、貴社の決算書を前提に「どの指標が足を引っ張っているか」「優先順位は何か」を銀行目線で棚卸ししますので、気軽に相談してください。
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