会社のお金と個人のお金。社長からは一緒でも、銀行からは別々のサイフとして見ている。
「黒字なのに、なぜ融資が通らないのだろう?」
この相談、実は非常に多いです。利益も出ている、売上も上がっている、税金もちゃんと払っている、それでも銀行からの評価がなぜか上がらない。経営者の立場からすると納得がいかない話ですよね。
しかし、決算書を見てみると、多くの場合に共通して存在している“ある項目”があります。
それが「貸付金」です。
一見、資産の一部として何気なく計上されているこの勘定科目。ですが、実は銀行や信用保証協会の審査では、非常に強いマイナス要素として見られる項目です。理由はシンプル。「会社の資金が社長個人に流れているように見える」からです。
銀行の立場で考えてみましょう。
銀行が融資をする目的は、“事業を拡大し、返済できるだけの利益を出してもらうこと”にあります。ところが決算書上で代表者貸付金が多額に残っていると、「融資したお金が会社の事業ではなく、社長の個人的な支出に使われているのでは?」という印象を与えてしまうのです。
たとえば、
• 「会社のお金を社長が生活費に回していないか?」
• 「経営管理がずさんではないか?」
• 「資金繰りが見えづらく、返済能力に不安がある」
こうした疑念が浮かぶと、どれだけ業績が良くても、融資の判断は一気に慎重になります。
特に信用保証協会付きの融資では、“代表者貸付金のある会社”は原則として警戒対象。審査の現場では、「資金の流れが不透明な会社」と判断される可能性が高いのです。
つまり、利益が出ていても、「決算書の見え方」で融資が断られることは充分あり得ることです。
経営者の多くは、「利益を出せば銀行は評価してくれる」と思いがちですが、実際には“資金の使い方”まで見られています。代表者貸付金が多いと、会社全体の資金管理体制そのものに疑問符がついてしまうのです。
銀行は“利益額”と同じくらい、“お金の流れが透明かどうか”を重視しています。
まずは、決算書の貸借対照表を開いてみてください。
「資産の部」に“貸付金”という項目があれば、そこがあなたの会社の“融資リスク”になっている可能性があります。利益が出ているのに銀行の反応が鈍い——その背景には、この見落としがちな一行が潜んでいるかもしれません。

なぜ“代表者貸付金”が発生するのか? 気づかぬうちに作っているケースも
「代表者貸付金なんて、うちはそんなことしてないよ」と思っていても、決算書を見て初めて「え? これが貸付金なの?」と驚く社長は少なくありません。
実はこの項目、意図的ではなく“無自覚のうちに”発生しているケースが非常に多いのです。
代表者貸付金とは、簡単に言えば「会社から社長個人への貸付」です。つまり、会社のお金を一時的に社長が使った状態。もちろん、個人的にお金を抜いたつもりがなくても、経理処理上はそう見られてしまうのです。
代表的な原因は、次のようなものです。
• 法人成り時に個人資産と会社資産の線引きが曖昧だった
たとえば、開業当初に個人の口座から事業資金を出し入れしていたり、逆に会社の口座でプライベートな支出をしていたりするケースです。
• 社長の立て替えや会社の支払いを一時的に混同している
経営者が自腹で経費を払うことはよくありますが、その処理を正しく経費として計上しないまま決算を迎えると、“貸付金”として処理されてしまうことがあります。
• 領収書や使途不明金を“とりあえず貸付金”で処理している
決算の追い込み時期、経理担当者や税理士が処理に困ると「とりあえず貸付金にしておきましょう」とまとめることがあります。結果、実態のない数字が残ってしまうのです。
• 役員報酬が低すぎて、生活費を会社から立て替えている
資金繰りの都合で役員報酬を抑えた結果、社長個人の生活費を会社から支払っているような状況も貸付金として扱われます。
これらはいずれも、悪意があるわけではありません。
むしろ「忙しい中で仕方なくそうなっていた」ケースがほとんど。
しかし、銀行は“実態”ではなく“決算書上の数字”で判断します。
社長にとっては「たまたまこうなった」でも、銀行にとっては「会社のお金の流れが不明確」と映ってしまうのです。
また、経営者が数字に強くなく、顧問税理士に処理を任せきりというパターンも要注意です。
貸付金の発生に気づかないまま決算が進み、次年度にはさらに金額が増えてしまうことも少なくありません。
このように、代表者貸付金は「資金繰りの悪化」「信用格付の低下」の入り口になり得ます。
だからこそ、まずは“なぜ発生しているのか”を正しく理解することが第一歩。
原因が分かれば、対策も見えてきます。

融資審査と信用格付に直撃 “改善しているか”が銀行評価を左右する
銀行や信用保証協会が企業を評価する際、最も重視しているのは「資金の流れが健全かどうか」です。
損益計算書(P/L)で利益が出ていても、貸借対照表(B/S)に代表者貸付金が多額に残っていると、「お金の使われ方に問題がある」と見なされるのです。
たとえば、代表者貸付金が多い会社は、次のように判断されがちです。
• 「会社の資金が社長個人に流れている=内部統制が甘い」
• 「本来事業に使われるべきお金が私的用途に流用されている」
• 「キャッシュフローが不透明で、返済原資が確保できていない」
この“資金の透明性”こそ、銀行の信用格付に直結する要素です。
つまり、たとえ黒字であっても「会社の資金がどこに行ったのか分からない」と見られれば、格付は下がり、結果的に融資の可否や金利条件にも影響が出ます。
特に信用保証協会は、この項目に非常に敏感です。
貸付金が残っている会社は「社長個人と会社の線引きができていない」と判断され、保証の対象外となることさえあります。実際、利益が出ているにもかかわらず、「保証協会が付かないため融資が難航した」という事例は珍しくありません。
ただし、ここで大切なのは「完全にゼロでないとダメ」という話ではないということです。
銀行が見ているのは“状態”ではなく“改善の方向性”です。
たとえば、
• 前期より貸付金が減少している
• 毎月の役員報酬から計画的に返済している
• 月次試算表や総勘定元帳で返済の動きが見られる
といった点が確認できれば、「経営者が問題を理解し、改善に動いている」と前向きに評価されます。
逆に、利益が増えていても貸付金が年々膨らんでいると、「会社の資金を社長が使っている」とみなされ、格付ランクが下がるリスクが高まります。
まずは「代表者貸付金を増やさない経理体制」を整えることが重要です。
具体的には、
• 顧問税理士に「この勘定を決算書に残したくない」と明確に伝える
• 月次試算表の段階で貸付金残高をチェックする
• 決算月には、一時的でも返済して“減少傾向”を見せる
これらの対策を取るだけでも、銀行の印象は大きく変わります。
銀行は数字の裏にある“経営者の姿勢”を見ています。
「問題を放置せず、改善に取り組んでいる」という事実そのものが、最大の信頼獲得ポイントになるのです。

決算書の“見られ方”を変えよう 代表者貸付金ゼロで融資に強い会社へ
代表者貸付金は、一度積み上がるとなかなか消えにくい項目です。
「気づいたら毎期少しずつ増えていた」「一度きれいにしたのに、また復活してしまった」──そんな声も珍しくありません。
しかし、これは決して“手遅れ”ではありません。大切なのは、今からでも改善の一歩を踏み出すことです。
まず最初にやるべきは、自社の決算書と月次試算表のチェックです。
資産の部に「代表者貸付金」や「関連会社貸付金」といった項目があるか確認してみましょう。
もし残高がある場合は、その内容をしっかり把握することが出発点です。
「いつ・どんな理由で発生したものか」「実際に返済可能なのか」を整理するだけでも、財務の見える化が進みます。
次に、改善のステップです。
すぐにできる対処としては
• 役員報酬からの計画的返済
• 私的支出の会社負担をストップ
• 会社と個人の口座を完全に分離
• 決算前に一時返済を行い、残高を減らしておく
など。
特に「完璧にゼロにする」のが難しくても、「前年より減っている」という事実を作ることが重要です。
銀行は“完璧な会社”を求めているわけではなく、“改善に取り組む会社”を評価します。
少しずつでも貸付金が減っていれば、それだけで「資金管理が改善されている」と判断され、信用格付の見直しにつながるケースもあります。
また、この取り組みは単に“融資を通りやすくするため”だけではありません。
代表者貸付金を解消していく過程で、会社のお金と個人のお金の線引きが明確になり、経営の意思決定がスムーズになります。 つまり、「経営の見える化」と「キャッシュフローの安定化」という副次効果が生まれるのです。

もし、「どこから手を付ければいいのか分からない」「銀行がうちをどう見ているのか不安」という場合は、専門家に相談するのもアリです。
当社では、BS(貸借対照表)の改善や資金繰りの再設計、銀行評価シミュレーションを通じて、「銀行が貸したくなる会社」づくりをサポートしています。
融資に強い決算書へ整えていくことは、単なる数字の修正ではなく、会社の信頼を築くための経営戦略そのものです。
利益が出ているのに融資が通らない——。
その裏にある“代表者貸付金”という落とし穴を正しく理解し、今期こそ“見られる決算書”をつくっていきましょう。
経営を支えるのは、数字の整合性ではなく「お金の流れの透明性」です。 あなたの会社の信頼を取り戻す第一歩は、貸付金の棚卸しから始まります。
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