銀行の「追加融資」を通すコツ

1. 追加融資の前に整える「4つの土台」

返済実績・業績の安定・資金使途・他の借入状況をやさしく点検

「銀行に追加融資をお願いしたい」。そう思ったら、まず“お願い”の前に整える・見せる・伝えるの順番で準備を進めましょう。

審査で必ず見られるのは次の4点です。ここをやさしく、でも抜けなくチェックできると、面談の納得度がぐっと上がります。

① 返済実績(約定どおり返してきたか)
・直近12か月の返済入出金を確認し、遅延の有無をメモに。もし遅延があれば「原因/是正済み/再発防止」の3点セットで説明できるように。
・リスケ中なら、計画どおり運用できている記録を用意しましょう。銀行は“約束を守れる会社か”を見ています。

② 業績の安定(売上・粗利・人件費のバランス)
・月次試算表の「売上・粗利・人件費」の推移を1枚グラフに。季節要因や一時費用は注釈で補足。
・“忙しいのに利益が薄い”場合は「人時採算(時間あたりの粗利)」も添えると、改善の意思が伝わります。

③ 資金使途(何に使い、いつ回収されるか)
・「在庫の先仕入れ」「設備更新」「新店準備」「広告投資」など、具体的な使いみちと回収シナリオをKPI付きで。
例)新リーチ100件→来店30件→成約10件→月商+◯万円、回収12か月—のように“数字の道筋”を書きます。

④ 他の借入状況(全体像が分かるか)
・金融機関ごとの残高・金利・返済額・満期・担保・保証の借入一覧を1枚に。
・短期と長期を分け、「返済の山(満期集中)」がある場合は対策(借換え計画・据置期間の提案)も添えましょう。

――ここまで整うと、銀行は「追加融資の妥当性」を前向きに検討しやすくなります。ポイントは、数字を“盛る”ことではなく、増減の理由をやさしく説明すること。不利に見える数字も、背景と是正策があれば評価は下がりません。

小さなチェックリスト
□ 返済遅延の有無とメモ □ 売上・粗利・人件費の推移グラフ
□ 資金使途と回収KPI □ 借入一覧(短期・長期・満期)

2. 銀行に伝わる「理由の書き方」

成長投資と資金繰りの改善は“説明の順番”がカギ

同じ数字でも、伝える順番で印象は大きく変わります。追加融資の理由は、まず全体像→具体策→数字→リスク対応→お願い、の流れでまとめましょう。私たちのおすすめは、次の5ステップです。
①背景(なぜ今)→②目的(何を実現)→③使い道(資金の内訳)→④効果(指標と回収見込み)→⑤リスクと対策(代替案)

成長投資の理由は「回収の道筋」を先に

新商品、設備、増員、店舗改装など前向きな投資は、回収の地図を示すのが要点です。

  • 背景:既存顧客からの引き合い増、老朽化、機会損失の発生 など
  • 使い道:設備◯百万円/広告◯十万円/人件費立ち上がり◯十万円
  • 効果:月あたり新規◯件→成約◯件→売上◯円、回収◯か月
  • リスクと対策:需要が想定の80%なら販路Bを追加、立ち上がり遅延時は可変費を抑制 など
    ※“希望”ではなく、数字の道筋で語るのがコツです。

資金繰りの改善は「原因→対策→再発防止」の順で

仕入れ先の支払前倒し、売掛の入金遅延、季節波動などで資金が詰まることは珍しくありません。ここでは、

  • 原因:大口の回収遅延、在庫積み増し など
  • 対策:回収交渉、在庫圧縮、支払サイト調整、短期枠の活用
  • 再発防止:週次の資金予定表、与信ルール、在庫の発注基準見直し
    時期と担当つきで示しましょう。目的が「延命」ではなく正常化だと伝われば、評価は下がりません。

そのまま使える“ひとことテンプレ”

  • 成長投資:
    「既存顧客の追加需要に対応するため、〇月に設備更新を実施。投資◯百万円に対し、月次売上+◯円、12か月で回収を見込みます。80%着地の場合は販路Bを併用します。」
  • 資金繰り:
    「回収遅延により〇月に資金がタイト化。既に回収計画を合意済みで、在庫圧縮と支払サイト調整を並行。週次の資金予定表で再発防止を運用します。」

NGになりがちな表現

「とりあえず不足分を…」「決算で黒字なので問題ありません」――理由が曖昧、効果が数値で語られていない、再発防止が見えない。これらは避けましょう。

仕上げチェックリスト

□ 背景→目的→使い道→効果→リスクの順になっている
□ 効果は件数・率・金額・回収月数で示した
□ 対策は期限と担当が入っている
□ 1~2ページに要約し、詳細は別紙に

3. 今すぐできる「見える化」3点セット

CF・簡易事業計画・借入一覧で“安心材料”を揃える

追加融資の相談でいちばん効くのは、「準備が整っている会社」に見えること。難しい分析より、(1)キャッシュフロー(CF)(2)1枚の簡易事業計画(3)借入一覧の“三種の神器”を用意するだけで、面談の納得度は一段上がります。どれも今日から着手できます。

① CF計画書:資金の“呼吸”を週単位で見せる

  • やること:今週+先12週の入金(売上回収・現金売上)/出金(仕入・給与・家賃・返済・税金)を週ごとに並べ、右端に週末の手元資金残を表示。
  • 色分け:確定=緑、見込み=黄、未確定=赤。精度が一目でわかります。
  • 運用:毎週月曜に10分更新。残高が薄くなる週には、支払の前倒し/後ろ倒し、在庫圧縮、短期枠の活用など具体策メモを付けておきましょう。
    → 銀行は「近い将来の詰まり」を気にします。CF計画表があるだけで安心感が違います。

② 簡易事業計画:A4一枚で“やること”を言語化

  • 構成:①背景(なぜ今)②目的(何を達成)③主要KPI(件数・率・金額)④打ち手(価格・原価・在庫・回収)⑤スケジュール(いつまでに)⑥体制(誰が担当)。
  • ポイント:文章は短く、数字と期限をセットで。図表は多くなくてOK。
    → 分厚い計画よりも、進捗が追える一枚のほうが信頼されます。

③ 借入一覧:全体像がひと目で伝わる

  • 項目:金融機関/残高/金利/返済額(月)/返済方法(元金均等・元利均等)/満期/担保・保証/コベナンツ(約束条件)。
  • 工夫:短期・長期を分け、期日の山には黄色マーカー。更新・借換の予定もメモ。
    → 「どこから、いくら、どんな条件で」まで見えると、銀行は融資後の姿を描きやすくなります。

今日からの3ステップ

  1. Excelを週グリッドに:現金出納や入出金台帳を週区切りに貼り替え、今週+12週を埋める。
  2. 計画を1枚に圧縮:背景→目的→KPI→打ち手→期限→担当の順でA4一枚に。
  3. 借入を棚卸し:全金融機関を横並びにし、金利・期日・担保を記入。満期の山に対応案を追記。

よくあるつまずきと回避

  • 売掛・買掛の期ズレ:平均サイトを設定し、自動で週に割り付ける。
  • 入力が続かない:最初は主要3〜5項目だけ。速く雑に始めて、徐々に精度UP
  • 計画が“願望”になる:KPIは件数・率・金額・期日で必ず定量化。

4. それでも難しい時のセカンドプラン

ファクタリング/リースバック/クラファンの使い分け

準備を整えても、時期や業界方針の影響で追加融資がすぐに出ないことはあります。そんなときに“延命”ではなく“橋渡し(ブリッジ)”として検討したいのが、ファクタリング/リースバック/クラウドファンディングの3手です。特徴と向き・不向きを、やさしく整理します。

ファクタリング(売掛金の早期現金化)

  • 向いている:売掛が厚く、入金までのタイムラグを埋めたいとき。
  • メリット:担保なしで早い資金化が可能。審査は取引先の信用力も加味。
  • 注意点:手数料は資金コストとしては高め。継続利用は粗利を圧迫します。契約前に、総手数料・最低利用期間・追加費用(登記など)を必ず確認。
  • 使い方のコツ:原因(回収遅延・季節要因)をCF計画書で数値化し、スポット利用にとどめる。銀行にも事前共有すると信頼を落としません。

リースバック(資産を売って借りて使う)

  • 向いている:不動産や機械に含み益や遊休資産がある会社。
  • メリット:まとまった資金が入り、BSのスリム化にも寄与。担保解放・借換えの下地づくりにも。
  • 注意点賃料が毎月の固定費になります。将来の買戻し条件や原状回復、解約違約金もチェック。導入前に月次CFで賃料負担を試算しましょう。
  • 使い方のコツ:複数社で相見積もり。売却価格+賃料総額+期間をならして実質利回りを比較。

クラウドファンディング(お金+PR)

  • 向いている新商品・地域プロジェクトなど、話題化したい案件。
  • メリット:資金調達とファンづくり/テストマーケを同時に実行。
  • 注意点:準備負荷が高く、情報を公開するリスクも。リターンの原価・発送体制を先に固める。融資型は金利・手数料、投資型は株主対応の負担も把握。
  • 使い方のコツ:目標金額は保守的に。ストーリー・写真・FAQを丁寧に作り、日々の更新で温度感を維持。

どれを選ぶ?かんたん早見表

  • 売掛が厚く、短期のズレだけ → ファクタリング(スポット)
  • 資産に余力がある → リースバック(実質利回りを比較)
  • 商品性が強く、PRも欲しい → クラファン(購入型が扱いやすい)

銀行との関係は“サプライズなし”

代替手段を使うときほど、銀行には事前に共有しましょう。

  • 「◯月の資金ギャップを◯円、スポットでこう埋めます
  • 「◯月に◯◯をリースバック。賃料は月◯円でCFに反映済み」
    先に伝えるだけで印象は大きく変わります。目的は延命ではなく、次回の追加融資・条件改善への“橋渡し”だと理解してもらうためです。

5. 追加融資後にやるべきこと

使途のフォローと“半期面談”で次の打ち手につなぐ

融資は“ゴール”ではなく“スタートライン”。実行後の6か月をどう過ごすかで、次の資金調達や条件改善(利率・期間・プロパー化)の可能性が大きく変わります。ポイントは、使途のフォロー → 効果の見える化 → 半期の予告面談という流れを習慣化することです。

① 使途のフォロー:お金の通り道を残す

  • 資金使途メモ:見積・請求・支払い記録を1フォルダに集約。設備は型番・納期・稼働開始日まで書き添える。
  • 回収の道筋:投資に紐づくKPI(問い合わせ件数、成約、客単価、稼働率など)を“週次で一行”更新。
  • 13週CFに反映:支払日・運転増減・返済スケジュールを即時反映し、残高推移を最新に保つ。

② 効果の見える化:数字で“効いた”を示す

  • 月次ミニ報告(A4一枚)
    1. 今月の使途と実施状況(写真・納品書)
    2. KPIの推移(前月比・計画比)
    3. キャッシュ影響(売上・粗利・在庫・回収)
    4. 来月の打ち手と担当
      分厚い資料より、一枚を続ける方が信頼につながります。

③ 半期の“予告面談”:サプライズをなくす

  • タイミング:実行後3か月で中間報告、6か月で半期面談。日程は先に予約
  • 持参物:CF計画書、月次ダッシュボード、使途ログ、KPI推移、借入一覧の更新。
  • 伝える順番:①振り返り(効いた/未達の理由)②今後の打ち手③資金計画と希望(例:返済期間の微調整、プロパー比率UP、コミットライン新設)。

④ 小さなNGを避ける

  • 目的外使用の疑念を残さない(科目の付け方・証憑の保管を丁寧に)。
  • 計画未達を隠さない。背景と代替策を先に提示すれば評価は下がりません。
  • 月次の遅延・数字の食い違いは信用を削る。集計ルールを最初に固定しましょう。

⑤ 30-60-90日の目安

  • 30:使途ログ整備、13週CF更新、KPI計測開始。
  • 60:ミニ報告2回目、在庫・回収の改善アクション実行。
  • 90:中間面談(効果と次の投資案を“提案”として共有)。

まとめ
融資実行後は、記録→見える化→予告面談の3点セットを淡々と回すだけで、銀行は「計画を運用できる会社だ」と判断します。結果、次回のスピードも条件も良くなります。

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