原価率が下がったのに、なぜかお金が増えない…その違和感は正しい
「原価率が改善しました!」と聞くと、普通は安心します。
数字として“良くなった”のだから、利益も増えているはずだ、と。ところが現実は、通帳の残高が思ったほど増えない。むしろ資金繰りは相変わらずキツい。
ここで経営者が感じる違和感は、かなり正しい感覚です。
なぜなら、財務の現場ではよくあるからです。率が良くなった=儲かった、とは限らない。逆に、額で見ると大したインパクトがない改善に、時間と熱量を注いでしまうこともある。たとえば「原価率が1〜2%下がった」だけで気分が上がる一方、売上規模が小さければ増える粗利は限定的です。
頑張った割に、会社全体の体力はあまり変わらない。こうなると、改善活動そのものが“自己満足”になりやすい。
反対のパターンもあります。「今月は経費が増えた」「外注費が上がった」と額だけを見て焦る。でも売上が伸びているなら、率で見ると健全な投資だったり、むしろ効率が上がっていることもある。額だけを追い過ぎると、悪化の“本当の原因”を見抜けません。削るべきところではなく、伸ばすべきところを削ってしまう。これもよくある落とし穴です。
経営の意思決定が遅くなる会社は、だいたいこのどちらかに偏っています。
- 率ばかり追って、影響の小さい改善に時間を使う
- 額ばかり追って、構造の悪化(どこが歪んでいるか)を見落とす
結局のところ、経営で大事なのは「良くなった/悪くなった」を判断することではなく、どこに手を入れれば、いちばん早く、いちばん大きく会社が変わるかを見極めることです。そのためには、数字を片面から見ない。率と額をセットで見て、判断を速くする。この話は、財務に強い社長ほど当たり前にやっています。

「率」は構造を見る数字、「額」はインパクトを見る数字、役割が違う
「率と額、両方見るのが大事」と言うのは簡単ですが、腹落ちさせるには“役割の違い”をはっきりさせた方が早いです。
ざっくり言うと、率は構造、額はインパクトを見せる数字です。
両者は似ているようで、見ている世界が違います。
まず率(%)は、経営の“体質”を映します。原価率、粗利率、人件費率、販管費率。これらは「儲かり方の型」がどうなっているか、どこが重いか、どこに歪みがあるかを教えてくれます。率が悪化するということは、単なる出費増ではなく、価格・仕入・生産性・商流・固定費構造など、何かしらの構造要因が潜んでいることが多い。だから率は原因追及に向いています。
一方で額(円)は、経営への“効き方”を教えてくれます。改善しても会社がほとんど変わらないこともあれば、たった1つの項目で一気に資金繰りが楽になることもある。ここを見誤ると、優先順位を間違えます。
例えば、率が少し良くなる改善でも、売上規模が大きい会社なら粗利額は大きく動く。逆に、率が劇的に良くなっても、対象の売上(母数)が小さければ利益額はほとんど増えない。「何%変わったか」ではなく「いくら増減したか」を見ないと、意思決定の精度は上がりません。
ここで大事なのが、率と額は“セット”だということです。
- 率が動いたら:それを必ず「年間(または月次)でいくらの差になるか」に落とす
- 額が動いたら:それを必ず「売上に対して何%なのか」に戻して、構造の変化を疑う

この往復ができると、経営判断が急にクリアになります。
たとえば原価率が1%下がったとき、率の改善に喜ぶだけではなく、「粗利がいくら増えたか」を確認する。逆に、外注費が月20万円増えたとき、額だけを見て焦るのではなく、「外注費率はどうなったか」「粗利は増えているか」「生産性に効いているか」を見る。
率で“意味”をつかみ、額で“優先度”を決める。これが財務の基本動作です。
そしてもう一つ、見落とされがちですが重要なのが、率と額は“フェーズ”で重みが変わることです。
拡大期は投資が増えやすく、額が増えても率が保てていれば健全な場合が多い。
逆に、資金繰りがタイトな局面では、率の改善よりもまず額の改善(キャッシュに効くか)が優先されることもある。
つまり、率と額を見分けるだけでなく、会社の状況に合わせて“どちらを先に使うか”も変わります。
財務判断の型はこれだけ:率→額換算/額→率で原因分解/時間コストで優先順位
率と額の役割が分かったら、次は「どう使うか」です。現場で効くのは、難しい理論より“判断の型”を固定すること。私は実務では、次の3ステップに落とし込みます。
これだけで、月次の意思決定スピードが上がります。
1)率が動いたら、まず“額”に落とす(率→額換算)
原価率、粗利率、人件費率などが改善・悪化したら、最初にやるべきはこれです。
「で、いくら増減した?」を出す。
率は気分を動かします。でも、会社を動かすのは額です。
率が1%改善しても、売上が小さければインパクトは小さい。逆に売上が大きければ、1%は武器になる。だから率の変化を見たら、必ず「月」「年」で粗利(または利益)がいくら動いたかを計算して、優先度を決めます。
ここでの狙いは、改善テーマの“選別”です。
効果が小さい改善に、何十時間も使うのはもったいない。時間はコストなので、「取りにいく価値がある改善か」を額で先に判定します。
2)額が動いたら、次に“率”で原因を分解する(額→率に戻す)
逆に、経費や外注費が「増えた/減った」と額で見えたときは、そのまま結論を出さない。
「売上に対して何%?」に戻して、構造の変化を疑います。
額が増えたのは悪ではありません。売上拡大に連動しているなら健全なことも多い。
一方で、売上が横ばいなのに特定費目だけが増えているなら、そこに漏れや非効率が潜んでいる可能性が高い。
率に戻すことで、「単なる増減」から「構造の問題」に視点が切り替わります。
ここまでやると、会議の会話が変わります。
「増えたから削る」ではなく、
「何に効いて増えたのか/効いていないならどこで止めるか」
という意思決定になります。
3)最後に“時間コスト”で優先順位をつける(自己満足を排除する)
そして一番大事なのがここです。率と額が分かっても、全部は改善できません。やることを増やすほど、現場も経営者も疲弊します。だから最後に、改善テーマを時間コスト対効果で並べ替えます。
- 影響額は大きいか(粗利・利益・キャッシュに効くか)
- 実行難易度はどうか(誰がやるか、いつまでにやるか)
- 効果が出るまでの時間は短いか(今効くのか、半年先か)
この3点で見て、「早く効く/大きく効く」ものから着手する。
逆に、率が気持ちよく改善しそうでも、影響額が小さいなら後回しでいい。ここを割り切れると、財務は一気に現実的になります。率ばかり追って達成感を得るのではなく、会社の体力が本当に増える手を打つ。これが“財務で判断する”ということです。

月次はPLを眺める場ではなく“意思決定の場”に 率×額で管理を回そう
率と額を両方見る目的は、数字に強くなることではありません。意思決定を速くして、やるべきことを絞り、会社の体力を増やすことです。
月次で試算表を見て「ふむふむ」で終わるのと、次の一手が決まって動き出すのとでは、半年後の景色が変わります。
そのために、月次の運用を少しだけ変えると効果が出ます。ポイントは「率×額」の往復を、会議の型として固定することです。
- 率が動いた項目は、必ず“額”に落とす
「原価率が1%改善」→「粗利はいくら増えた?」→「年間でいくら?」 - 額が動いた項目は、必ず“率”に戻す
「外注費が20万増」→「外注費率は?」→「売上増に連動?それとも構造悪化?」 - 最後に、時間コストで優先順位を決める
「影響額×実行難易度×効果が出る速さ」で並べ替え、上位だけ着手する
これだけで、改善活動が“自己満足”になりにくくなります。数字が良くなった感だけを追わず、ちゃんと会社の体力(利益・キャッシュ)に効くテーマに時間を使えるからです。

もう一つ大事なのは、率×額で見ると「削る」以外の判断もしやすくなることです。
経費が増えていても、率が保てていて粗利額が増えているなら、それは攻めの投資かもしれない。
逆に、売上が伸びているのに粗利額が増えていないなら、値付けや原価、商品構成に構造の問題がある。数字を片面で見ると“節約一択”になりがちですが、両面で見ると、伸ばすべきところと止めるべきところが分かれてきます。
財務が得意な会社は、結局ここをやっています。特別な分析ツールがあるわけでも、難しい指標を追っているわけでもない。
率で構造をつかみ、額で優先順位をつけ、時間の使い方を決める。
この基本動作を月次で回しているだけです。
もし今、
「原価率は改善しているのに儲からない」
「経費を削っているのに手応えがない」
「月次をやっているのに意思決定が進まない」
こんな感覚があるなら、月次の見方を“率×額”に切り替えるだけで変わります。
必要であれば、御社のPLをもとに「どの率を見て、どの額に落とし、どこから手を付けるか」を一緒に整理できます。数字は責めるためではなく、次の一手を決めるための材料です。月次を“判断が進む場”に変えていきましょう。
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