在庫は静かに会社の体力を削る「売れるから大丈夫」の落とし穴
在庫は資産です。
決算書ではBS(貸借対照表)の「棚卸資産」として堂々と載ります。だから多くの経営者が、在庫を持つことにそこまで強い警戒心を持ちません。
相談の場でもよく聞くのが、「売れる商品なので問題ないです」「いずれ売上になりますよね」という言葉です。気持ちは分かります。欠品を避けたい、機会損失を出したくない、繁忙期に向けて前倒しで仕入れておきたい。
現場の感覚としては、在庫は“安心”でもあります。
ただ、この感覚には落とし穴があります。
在庫は、売れるかどうかよりも先に「今、現金をどれだけ止めているか」が経営に効いてくるからです。言い換えると、在庫は現金が形を変えただけのもの。倉庫や棚に置いてある時点で、それは“将来の売上”であると同時に、“現在の資金拘束”でもあります。ここを見誤ると、会社は音もなく重くなっていきます。
怖いのは、在庫が増えてもPL(損益計算書)ではすぐに問題が見えないことです。むしろ売上が伸びている会社ほど、在庫が増えやすい。
仕入を厚めにする、製造を前倒しする、欠品を恐れて多めに持つ。そうするとPLは黒字のまま、見た目は順調に見えます。
でも通帳の残高だけがじわじわ減っていく。「決算は悪くないのに、なぜか資金繰りが苦しい」。この相談の背景に、在庫が潜んでいるケースを私は何度も見てきました。
在庫は、持っているだけで会社の体力を削ります。保管コストや管理工数もそうですが、何より大きいのは“現金が戻ってこない時間”が伸びることです。
売れるまで現金に戻らない。値引きしないと売れないかもしれない。そもそも流行や仕様変更で売れ残るかもしれない。
こうした不確実性を抱えたまま、現金だけが固定化されていく。しかもそれは、急に音を立てて崩れるのではなく、静かに進むから厄介です。
そして銀行は、この「静かに進むリスク」をよく知っています。
決算書を提出すると、棚卸資産は必ずチェックされます。ただし「たくさんある=良い」とは見ません。かといって「少ない=良い」とも限らない。足りなければ売上に影響します。
だからこそ、銀行が本当に知りたいのは金額そのものより、「その在庫は、いつ現金になるのか」という一点です。ここが曖昧なままだと、資産のはずの在庫が、融資の場面では一気に“リスク”として扱われてしまいます。

決算書で在庫は“資産”に見えるが、現金が止まっているだけのこともある
決算書の棚卸資産は、一見すると“会社の財産”です。
現金が商品や原材料に姿を変えただけで、売れれば売上になり、利益の源泉にもなる。だから在庫そのものを否定する話ではありません。
問題は、在庫が「資産として機能している在庫」なのか、それとも「現金を止めてしまっている在庫」なのかが、数字だけでは分かりにくいことです。
在庫が資産として機能している状態とは、回転が良く、一定のリズムで現金に戻ることが見えている状態です。
必要な量を必要な期間だけ持ち、販売計画や生産計画と連動している。
多少在庫が多くても、短期間で売れて現金化されるなら、資金繰りへのダメージは限定的です。
一方で、在庫がリスクに変わる典型は「現金化までの時間が伸びているのに、持つ量が増えている」状態です。
売上が伸びる局面では特に起きやすい。欠品を恐れて仕入を前倒しする、製造を先に積む、キャンペーンに備えて多めに発注する。
その結果、棚卸資産が積み上がり、キャッシュがじわじわ減っていく。PL上は黒字でも、資金繰りは苦しくなる。ここに経営者が違和感を持ちにくいのは、在庫の増加がすぐにPLを悪化させないからです。
さらに、在庫は評価がブレやすい。帳簿上は原価で載っていても、実際には「値引きしないと売れない」「モデルチェンジで陳腐化する」「そもそも動かない」といったケースがあります。売れ残りの可能性がある在庫は、現金化のタイミングも金額も読めない。
つまり、BSに“資産”として載っていても、現実には資産価値が目減りしていることがある。この“見えにくい目減り”が、在庫の怖さです。

そしてもう一つ、経営者が陥りやすいのが「売上=回収」と思い込むことです。
売れれば現金が入る、ではありません。売掛で売れば入金は先ですし、返品や値引きが入れば想定より入金は減ります。勘定科目でいうと棚卸資産が減って、売掛金が増える、現預金が増えているわけではないのです。
そもそも在庫は売れるまでゼロ円。売れてからも、回収できて初めて現金になります。だから在庫管理で本当に大事なのは、「売れるかどうか」だけではなく、「持ち続けても耐えられる量かどうか」「何か月分の現金を止めているか」という視点です。
ここを押さえると、在庫は“現場の都合”だけで判断するものではなくなります。
営業の安心、製造の効率、仕入の条件、それぞれ合理性はありますが、最終的には資金繰りに跳ね返ります。棚卸資産は、資産であると同時に、資金繰り表の中では「現金が在庫に移った」だけの出来事。
決算書を読むときは、在庫を“置いてある商品”ではなく、“止まっている現金”として見直すところから始まります。
銀行が在庫で見ているのは金額より“動き”増え方に違和感があると警戒される
銀行に決算書を提出すると、棚卸資産はかなりの確率で話題になります。ここで誤解されやすいのが、「在庫が多いと悪いのか?」という点です。銀行は単純に“多い・少ない”で判断しているわけではありません。見ているのは金額そのものよりも、在庫の動き(増え方・減り方)です。つまり、「その在庫は本当に回っているのか」「現金に戻る確度が高いのか」という目線です。
銀行が気にする典型のチェックポイントは、まさに次のようなものです。
• 前年より在庫が増えていないか
• 前期と同じ在庫が残っていないか
• 売上の伸び以上に在庫が増えていないか
このどれかに違和感があると、一気に警戒モードに入ります。
理由はシンプルで、銀行にとって在庫は「資産かどうか分からないもの」だからです。帳簿上は原価で載っていても、実態は値引きしないと売れないかもしれない。流行遅れや型落ちで売れ残る可能性もある。
最悪の場合、処分しても現金にならない。評価がブレやすい資産は、担保的に見ても、返済原資として見ても、慎重にならざるを得ません。
だから、在庫が増えている会社ほど融資判断は慎重になります。「売上がある」「利益が出ている」だけでは評価されにくくなる局面が出てきます。
社長が「在庫は売れます」と説明しても、銀行はそれを前提に融資を組み立てません。銀行は“希望”ではなく“確度”を見ます。どの商品が、どのくらいの期間で、どの価格帯で、どれだけ現金化されるのか。それを数字と動きで確かめたい。ここが曖昧だと、「資金が在庫に寝ている=資金繰りが悪化するリスクが高い」と見られてしまうんです。

さらにいうと、在庫増は「資金使途の不透明さ」とも結びつきます。
本来、運転資金は回転するはずなのに、在庫として滞留している。回転が鈍い在庫が増え続けると、追加融資をしてもまた在庫に変わって滞留するのでは、と疑われやすい。結果として、ニューマネーが出にくくなる。
これは経営者からすると理不尽に感じるかもしれませんが、銀行の立場では合理的なリスク管理でもあります。
では、銀行目線で「安心できる在庫」とは何か。
ひとことで言うと、説明が“動き”でできる在庫です。単に「売れます」ではなく、「月次で回転している」「滞留が出たら評価減の基準がある」「季節要因で一時的に増えるが、いつまでに現金化する計画がある」といった形で語れる状態。
財務を理解している社長ほど、ここを押さえています。
だから在庫を増やす判断も慎重だし、増やすなら必ず「いつ現金に戻るか」をセットで考える。銀行からの見え方を知ることは、在庫管理を甘くしないための、強いブレーキにもアクセルにもなります。
在庫は「いつ現金に戻るか」で管理する、棚卸資産を武器に変えるために
在庫は、資産でもありリスクでもあります。だから答えは「在庫を減らせ」ではありません。(在庫を持たずに売上が維持できるならそれがベストです)
大事なのは、在庫を“現金化までの時間”で管理することです。棚卸資産を「ある・なし」「多い・少ない」で語るのではなく、「この在庫はいつ現金に戻るのか」「戻るまで会社は耐えられるのか」という視点に切り替える。これができると、在庫は会社を弱らせる存在から、利益と資金繰りを両立させる“武器”になります。
まず、経営として最低限持っておきたいのは、次のような見方です。
- 在庫が増える理由は説明できるか(季節要因・新規案件・欠品対策など)
- いつ、どのくらい現金化される想定か(月次での販売計画・回収条件まで含めて)
- 売れ残りの基準があるか(滞留期間・評価減・処分判断のルール)
- 売上の伸びと在庫の伸びが釣り合っているか(在庫だけ先に膨らんでいないか)
ポイントは“感覚”で持たないことです。
「売れるから大丈夫」は、社長の頭の中では正しくても、決算書と通帳の世界では別問題になり得ます。在庫は売れるまで現金に戻りませんし、売れても回収されて初めてキャッシュになります。資金繰りが苦しい会社ほど、在庫が「将来の売上」ではなく「今止めている現金」になっているケースが多い。
だからこそ、在庫は資金繰り表とセットで見るべきです。
次に、銀行対応という意味でも「在庫の管理レベル」はそのまま信用につながります。銀行が見ているのは金額より動きでした。ならばこちらも、動きで語れる状態を作る。具体的には、前年との比較、売上との連動、滞留の有無、季節波動の説明。
これらが整理されているだけで、同じ在庫額でも見え方が変わります。
逆に、在庫が増えているのに説明が曖昧だと、「利益が出ているのにお金が残らない会社」「追加融資をしても在庫に消える会社」と見られやすくなる。
ここは本当にもったいないところです。

そして最後に、これは現場へのメッセージでもあります。
在庫は“安心”のために増えがちです。でも、安心の代わりに会社の体力を削っていないか。欠品回避・生産効率・仕入条件のために持つ在庫が、資金繰りを圧迫していないか。経営者が「いつ現金に戻るか」を軸に判断できるようになると、現場の意思決定にも基準が生まれます。結果として、売上機会を守りつつ、資金も守れるようになります。
もし、決算は悪くないのに資金繰りが苦しい、在庫が年々増えている、銀行の反応が渋くなってきた——そんな兆しがあるなら、一度棚卸資産を“財務の目線”で点検してみてください。月次で在庫の動きとキャッシュの動きをつなげるだけで、見える景色が変わります。
棚卸資産回転期間(在庫回転日数)の代表的な計算式はこれです。
一度自社の数字を計算してみてください。
① 基本形(年ベース)
棚卸資産回転期間(日)= 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 365(日)
- 棚卸資産:期首と期末の平均を使うのが一般的
→ 平均棚卸資産=(期首棚卸資産+期末棚卸資産)÷2
② 月ベースで見たい場合
棚卸資産回転期間(月)= 棚卸資産 ÷ 売上原価 × 12(か月)
③ 売上高を使う簡易版(業種によっては注意)
棚卸資産回転期間(日)= 棚卸資産÷ 売上高× 365(日)
在庫の数字は、正しく見れば必ず経営のヒントになります。
一人で抱え込まず、第三者の視点を入れることも、選択肢のひとつです。
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