介護福祉業界に共通する「資金繰りの壁」
介護・福祉事業の経営者からの資金繰り相談が、最近増えています。
特に新しく施設を立ち上げたばかり、もしくは開設から1〜2年の事業所で「もう資金が持たない」「毎月の支払いが限界」という声を聞くことが少なくありません。
一見すると、介護福祉業界は国の制度で報酬が定められているため、安定したビジネスのように思われがちです。
しかし、実際の現場を見てみると――
「人件費の高さ」「入金までの時間差」「稼働率が上がるまでの長い助走期間」など、資金繰りを圧迫する構造的な要因がいくつも存在しています。
中でも大きな課題が、人件費率の高さです。
職員や看護師、送迎ドライバーなど、スタッフの人数が多いことに加え、夜勤やシフト体制を維持する必要があるため、固定的な人件費負担は非常に重くなります。
多くの施設では、人件費率が売上の60〜70%を占めており、一般的なサービス業と比べてもかなり高い水準です。
さらに、もう一つ見逃せないのが入金までのタイムラグです。
介護報酬は、サービス提供から実際の入金までおよそ3ヵ月ほどかかります。
請求 → 審査 → 入金という流れが定型化されているため、仮に今月売上が伸びても、実際に現金が入るのは3ヵ月後。
その間の人件費・家賃・光熱費などの支払いは自前で立て替えなければならず、キャッシュフローが常に先行して苦しくなるのです。
このように、「制度上の遅れ」×「固定費の高さ」という二重構造が、介護福祉業界の資金繰りを難しくしています。
そのため、黒字決算でも資金が足りない、いわゆる“黒字倒産”が起こりやすいのがこの業界の特徴でもあります。
経営を安定させるには、「利益を出す」ことと同時に「資金を切らさない」仕組みをつくること。
この視点を持たない限り、どんなに現場が頑張っても、資金ショートのリスクは常につきまといます。

人件費率の高さがもたらす経営圧迫
介護福祉業界における最大のコスト要因は、言うまでもなく人件費です。
多くの施設では、売上に対する人件費率が60%程度が相場というところではないでしょうか。
つまり、毎月100万円の売上を上げても、60万円は人件費で消えていくということ。残るのはわずか40%前後です。
しかも、介護福祉業界では単純に「稼働率を上げれば黒字になる」とは限りません。
理由のひとつは、人件費の固定化です。
利用者が少なくても、夜勤やシフトを維持するために必要な人数は減らせない。
また、職員処遇改善加算などの制度的支給も多く、実際の給与支払い額が月によって上下しやすい。
そのため、売上が安定するまでの間、固定費が大きくのしかかる構造になっています。
特に新規開設から半年〜1年は、利用者の定着や紹介ルートの確立に時間がかかります。
にもかかわらず、スタッフの採用や教育には先行してコストが発生します。
その結果、キャッシュフローは常にマイナスの状態が続き、「立ち上げ期を乗り越えられない」施設も多数存在します。
このような状況下では、「削減」よりも「設計」という発想が重要です。
単に人件費を減らすのではなく、
・どのタイミングで人員を増やすのか
・給与体系をどう設計すればモチベーションを維持できるか
・稼働率が低い時期をどう乗り切るか
といった経営計画の中で人件費をコントロールする戦略が求められます。
また、見落とされがちなのが「社会保険料」や「退職金積立」などの間接人件費です。
表面上の給与総額だけを見て「人件費率は60%程度」と判断しているケースも多いのですが、実際にはこれらを含めると70%〜80%に達することも珍しくありません。
特に小規模事業者の場合、1名の欠員や急な採用で数十万円単位の変動が起きることもあります。
つまり、人件費は最も“読みにくい固定費”なのです。
こうした構造的な特徴を理解した上で、経営計画を立てること。
それが、資金繰りの安定化の第一歩になります。

3ヵ月遅れの入金サイクルと1年遅れの損益分岐
介護福祉業界の資金繰りを難しくしているもう一つの要因が、入金サイクルの遅さです。
多くの業種では「サービス提供 → 請求 → 翌月入金」という流れが一般的ですが、介護報酬の場合はそうはいきません。
介護サービスを提供した翌月に請求を行い、
その請求内容が国保連合会で審査され、実際に入金されるのは提供月から約3ヵ月後です。
つまり、4月に行ったサービスの報酬が振り込まれるのは7月。
この「3ヵ月のタイムラグ」が、経営を圧迫する要因となっています。
例えば、月間1,000万円の売上を上げている施設があるとします。
本来であればその入金が翌月にあると想定して運営できますが、介護業界では常に3ヵ月分、つまり3,000万円前後の運転資金を“先出し”している状態になるわけです。
この構造的なズレを理解していないと、「売上が上がっているのにお金がない」という現象が起きるのです。
さらに厄介なのが、新規開設施設の場合です。
利用者の獲得には時間がかかり、損益分岐点を超えるまでに約1年ほど要するケースが一般的です。
開設初期はスタッフの数を減らすわけにもいかず、固定費が先に発生します。
つまり、開業から1年目は「売上はまだ伸びないが、人件費と経費は満額発生する」という状態です。
この時期を乗り越えるには、“元金返済を1年据え置く”資金調達の設計と❝人件費などの運転資金を余裕を持って確保しておく”ことが不可欠です。
多くの経営者は、「早く返した方が印象が良い」「借金は減らしたい」と考えますが、実はこれは誤解です。
返済を早めるよりも、キャッシュを長く手元に残す方が良いのです。
銀行に事業計画書を提出する際も、
「利用者数が安定するまでの1年間は元金据え置きでお願いしたい」
と明確に伝えることで、現実的で持続可能な資金計画として評価されやすくなります。
私が前職時代に支援した大型の介護施設は2年間返済を据え置いたこともあります。
新規事業や拡張を検討する際には、「収益計画」だけでなく、「資金繰り計画」を1年先まで見据えること。
これが、介護業界における経営安定のカギです。

資金ショートを防ぐ“伴走型”計画づくりを
介護福祉事業では、「黒字なのにお金がない」という状況が起きやすいと述べました。
その背景には、入金の遅れや人件費率の高さといった構造的要因があります。
しかし、これらは避けられない宿命ではなく、“見える化”と“設計”で対処できる問題です。
まず、経営改善の第一歩は「数字の把握」です。
毎月の試算表をもとに、
・入金と支出のタイミング
・人件費率・固定費率の推移
・運転資金残高の変化
を明確にしておくことで、資金が不足する時期を早期に察知できます。
次に重要なのは、実現可能な資金繰り計画を立てること。
特に新規開設や拡大を控える場合は、
・借入の返済開始をいつにするか
・手元資金を何ヶ月分確保しておくか
・補助金・助成金をどう組み合わせるか
といった要素を“数字で”整理する必要があります。
ここでよくある誤解が、「計画書は形式的な書類」という認識です。
実際には、事業計画書は銀行との信頼を築くための最も重要なツールです。
自社の状況を正確に伝え、課題と対策を明示できる計画書は、「この会社はちゃんと考えている」と評価されます。
反対に、根拠のない数字や見通しで提出すると、「現実が見えていない」と判断され、融資判断にマイナスになります。
また、経営者が一人で抱え込みすぎるケースも非常に多いです。
介護業界は日々の現場業務が多忙で、経営分析や銀行対応に十分な時間を取れないという現実があります。
また、業績が痛む前に借入のバランスを是正することで、資金繰りが劇的に改善したケースもあります。
私たちのような第三者の視点が入ることで、
「この支出は本当に必要か?」
「ここは補助金を活用できるのでは?」
といった改善点が見えてきます。
これは数字の調整だけでなく、“経営者の判断の質”を高めるためのサポートでもあります。

【まとめ】介護事業の経営は“資金の体力づくり”から始まる
介護福祉事業は、社会的意義が大きく、地域にとって欠かせない産業です。
しかしその一方で、資金繰りに最も苦しみやすい業界でもあります。
人件費率の高さ、入金までのタイムラグ、利用者の安定までにかかる時間──これらの要素が重なり、どれだけ真面目に経営をしても資金ショート寸前に追い込まれるケースが後を絶ちません。
ここで大切なのは、
「お金がなくなってから考える」のではなく、「お金があるうちに備える」ことと、
人件費をいかに目標値内に収めるよう上手にハンドリングするか
ということです。
資金繰り表を毎月更新し、今後3ヵ月・6ヵ月の資金残高を見通すだけでも、
先手を打った行動が取れるようになります。
そして、新規出店や設備投資を検討する際は、元金返済を1年間据え置くなど、初期キャッシュアウトを抑える計画を銀行と共有することが重要です。
また、介護報酬改定や最低賃金の引き上げなど、外部環境の変化にも柔軟に対応できる財務設計が求められます。
「売上は国が決めるのに、コストは自社努力」という構造の中で生き抜くためには、数字で考える経営体質をつくるしかありません。
私たちが支援する介護福祉事業者の多くも、最初は「資金ショートの一歩手前」で相談に来られました。
ですが、キャッシュフローを可視化し、金融機関と正しい関係を築くことで、半年後には安定した経営に戻している事例も少なくありません。
資金繰りにおいて最も危険なのは、「何となく回っているから大丈夫」という思い込みです。
気づいたときには手遅れ──そうなる前に、ぜひ一度、自社の資金構造を見直してみてください。
当社では、資金繰り改善・銀行交渉・事業計画の立案までを一貫してサポートしています。
現場のリアルを理解したうえで、経営者とともに課題を整理し、未来を描く。
その“伴走”こそが、私たちの使命です。
資金繰りに不安を感じたとき、まだ余力があるうちに、ぜひ一度ご相談ください。
「数字の整理」から「金融機関対応」まで、現場に寄り添って支援いたします。




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