1.なぜ赤字は“信用”を削るのか
銀行が赤字を嫌うのは「損益がマイナスだから印象が悪い」ではありません。返済原資が不足している=元本返済の裏付けが薄いと判断されるからです。
融資は最終的に「返せるか」を見るゲーム。
ここで言う返済原資はシンプルに、営業で生んだキャッシュ(粗利−固定費)+減価償却を中心に考えます。赤字はこの源泉を痩せさせ、年間返済額との釣り合い(DSCR感覚)を崩します。結果として、格付・金利・期間・保証の条件がじわりと悪化し、追加融資や短期枠更新の自由度が下がります。
もう一つの観点は「継続企業の前提」です。赤字が続く=固定費の張り付きに対して粗利が弱い構造が疑われます。
粗利率の毀損、在庫・売掛の回転悪化、値上げ転嫁の遅れ――これらは営業キャッシュフローを蝕む慢性症状で、単発の特損よりも厄介です。銀行はここを面談で深掘りし、
(1)赤字の性質は一過性か構造的か
(2)来期に改善が効く手当が具体化しているか
(3)資金使途—必要額—返済原資のストーリーが一貫しているか
赤字のまま銀行交渉に臨むなら、最低限の“盾”を用意します。
• 粗利の回復計画:値決め・ミックス・不採算カットのアクション。
• 固定費の再設計:人件費・家賃・外注の弾力化(可変化)。
• 回転の正常化:在庫日数・DSO・DPOのKPI化と月次モニタ。
• 返済段差の緩和:据置・長期化・借換えでキャッシュ段差を平準化。
重要なのは、“見せ方”より“回る設計”です。
試算表の黒字化だけでは足りず、月次の資金繰り表で「返済が回る未来」を数値で描けるかが問われます。赤字そのものが致命傷ではありません。
赤字の原因—対策—効果発現の時系列を、売上仮説とKPIで結んだ瞬間、銀行の関心は“過去の赤字”から“再現性のある改善計画”へと移ります。
ここまで整えば、「貸したくない先」から「救える・育てられる先」へ評価は反転します。

2.銀行員はここを見る:決算書の“評価ポイント”
銀行の評価は「営業担当→審査部→決裁者」という流れで進みます。見ている本質は
①返済原資が十分か
②お金が回る構造か
③数字と実態の透明性
の3点です。その視点で決算書と補足資料をこう読み解かれます。
• 粗利の質:単なる率ではなく、値上げ転嫁の進捗、商品ミックス、値引きの常態化、為替・仕入れ上昇の影響を分解できるか。粗利率の悪化が“一過性”か“構造的”かを説明できる資料(単価×数量、主要カテゴリ別の粗利)を求められます。
• 固定費の張り付き:人件費・家賃・外注費の増加根拠と弾力性(可変化の余地)。増やした固定費に対する“回収設計”(売上KPIとの対応関係)が問われます。
• 返済原資(DSCR感覚):EBITDA(営業利益+減価償却)を基点に、一過性損益を調整して年間返済額と突き合わせ。将来12か月の見込みも提示できると強い。
• 所要運転と回転:在庫+売掛−買掛の水準、在庫日数/DSO/DPOのトレンド。成長局面では“増分運転”の資金需要が妥当かをチェック。
• BSの健全性:自己資本比率、債務超過の有無、固定長期適合率。役員貸付金・仮払金・未収入金は説明責任の焦点。未払税金・社保の遅延は警戒サイン。
• 非財務の安定性:主要顧客の集中度、契約の更新サイクル、値決め権、キーマン依存、請求〜回収プロセスの管理度合い。
• 資金使途とストーリーの一貫性:必要額の算定根拠(運転所要の算式、在庫積み増し根拠)、実行後の資金繰りマップ(12か月)までつながっているか。
面談で必ず飛ぶ質問例
• 今期の粗利率が××%動いた主要因は?(単価・数量・ミックス・原価の内訳)
• DSOが悪化/改善した一番の要因は?(回収条件の変更・遅延顧客の対策)
• 運転所要の増分は在庫+売掛−買掛でいくら増え、資金使途はどこに充てる?
• EBITDAと年間返済額の差分をどう埋める?据置・長期化・価格改定などの手当は?
• 役員貸付金・仮払金の解消計画は?未払税社保の清算スケジュールは?
結論として、銀行は数値の良し悪し“だけ”でなく「物語の整合性」を見ています。決算→直近月次→通帳→契約書(見積・発注・請求)の裏取りが一直線で、かつ12か月の資金繰り表に落ちていること。ここまで整えば、赤字局面でも「回る設計」と「実行管理」を前提に、条件調整や枠の設計に踏み込む余地が生まれます。

3.“見せ方”ではなく“実務修正”:今期から直す4領域
赤字を挽回する近道は、帳尻合わせの“見せ方”ではなく、キャッシュを増やす設計に事実を寄せていくことです。今期のうちに効かせられる実務修正を4領域に絞って着手します。
① 役員報酬と節税の再設計(EBITDAの底上げ)
過度な節税は返済原資を痩せさせます。まずは役員報酬×人件費×外注の配分を見直し、来期以降の固定費計画を「粗利計画に従属」させる形へ。
短期的には減価償却+営業利益=EBITDAの改善を最優先指標に置き、年間返済額<EBITDAを最低ラインに設定。
賞与・手当の季節性は資金繰り表に織り込み、据置や長期化、返済条件変更とセットで段差を慣らします。
② 在庫・売掛の回転改善(所要運転資金の縮小)
「在庫+売掛−買掛」の増分が資金を食います。
在庫回転日数・DSO・DPOを月次KPI化し、主要SKUのABC分析→安全在庫の再定義→発注頻度の細分化へ。
得意先とは回収サイト短縮/手形→振込化/部分前受などの取引条件交渉を、値上げと抱き合わせで実施。90日超の滞留在庫・延滞売掛は損切り基準を明文化し、棚卸評価の妥当性を注記で説明できる状態にします。
③ 役員貸付金・関連当座の整理(BSの“ノイズ”除去)
銀行が最も嫌う科目の一つが役員貸付金・仮払金・未収入金の膨張です。
返済スケジュール(源泉:役員報酬の一部天引き/配当との相殺/短期返済)を決め、月次で残高推移を開示。関連会社勘定は債権債務の相殺・契約の書面化・価格の独立性を整えます。
④ 注記・内訳と“面談パック”の透明化(裏取り一直線)
決算数値→直近月次→通帳→契約書(見積・発注・請求)まで裏取りが一直線になるよう、内訳書・年齢表・主要契約の写しをセット化。
一過性損益の調整根拠、価格改定の交渉記録、受注残・解約リスクの一覧を注記で補強し、「来期はこう回る」資金繰り表(12か月)に接続させます。
ここまで整うと、審査は“点検”から“設計の評価”に移り、条件交渉の余地が生まれます。
最後に実行計画の時間軸を。
今月:在庫・売掛のKPI定義/役員貸付金の解消計画作成。
来月:主要3社とのサイト・価格交渉/滞留在庫の処分。
四半期末:EBITDAと年間返済額の差分解消を確認し、必要なら据置・長期化・借換で段差を平準化。数字は“見せる”のではなく“回す”ために作る——この姿勢が、銀行の評価を確実に反転させます。

4.面談パックとロードマップ
ゴールは「貸したくなる先」=“回る設計が数字で示せる先”。
そのために、(A)面談パックの標準化と(B)90日→12か月の運用ロードマップを固定化します。
A.面談パック(1冊化・10点セット)
- 決算書2期+勘定内訳 2) 直近月次(PL/BS/在庫年齢表・売掛/買掛明細)
- 借入一覧(金融機関別・金利・残高・返済表・更新月)
- 12か月資金繰り表(入出金・返済・据置明け段差を可視化)
- 売上仮説と根拠(KPI、受注台帳、見積/発注/契約写し)
- 運転所要の算式(在庫+売掛−買掛の増減根拠)
- 価格改定・サイト交渉の記録(議事・実施時期・影響額)
- 役員貸付金・仮払の解消計画(工程表と毎月の消し込み)
- 一過性損益の調整メモ(性質・金額・来期影響)
- 主要KPIダッシュボード(EBITDA、DSCR、在庫日数、DSO/DPO、短期枠稼働率)
B.90日ロードマップ(反転の初動)
- 0–30日:KPI定義(在庫日数・DSO・DPO・EBITDA)。借入一覧の更新月と据置明けを整理。役員貸付金の解消計画を確定。
- 31–60日:主要3先と価格・サイト交渉、滞留在庫の放出、与信限度の再設定。月次資金繰り表を“面談用フォーマット”に統一。
- 61–90日:KPIの改善実績を反映した資金計画の改訂版を作成。必要なら長期化・借換・短期枠の再配分を行い、次の面談で提示。
12か月の運用サイクル(定例化)
• 毎月:KPIと資金繰り予実のレビュー→差異要因を3行で要約。
• 四半期:EBITDAと年間返済額の差分がプラス維持か確認(目安:DSCR1.2倍↑)。
• 半期:運転所要の増減を再測定し、在庫・売掛の“増分資金”の妥当性を再設計。
• 決算前:一過性損益の整理、注記・内訳の透明化、来期KPI目標と資金計画の接続を完了。
条件交渉の優先順位
①返済段差の平準化(据置/長期化/返済条件変更)
②短期・長期の期間ミスマッチ是正(恒常運転は長期、季節は短期)
③保証枠・プロパー枠の配分最適化(公庫=土台、民間=回転)
最終的に、「資金使途→必要額→返済原資→運用KPI→通帳の実績」が一直線でつながっているかが勝負所です。この“一本線”を面談パックと月次運用で維持できれば、赤字の過去よりも再現性ある未来が評価され、金利・期間・枠の選択肢が確実に広がります。

5.まとめ
結論として、銀行が見る本質は「黒字/赤字」そのものではなく、返済原資が継続的に生まれる設計と実行管理です。
公庫は“土台”、民間は“回転”に配分し、据置や長期化で返済段差を均しながら、在庫日数・DSO/DPO・EBITDA・DSCRを月次で追う。決算→月次→通帳→契約へ裏取りが一直線になる面談パックを標準化し、役員貸付金や仮払などのノイズを除去。見せ方ではなく、粗利の質の回復、固定費の弾力化、運転所要の縮小でキャッシュを増やすことが「貸したくなる先」への最短距離です。
まずは90日で初動を定着させ、次の12か月運用サイクルで実績を積み上げる。要は「資金使途→必要額→返済原資→運用KPI→通帳実績」の一本線を崩さないこと。ここが通れば、赤字局面でも調達余地は必ず開けます。
銀行への報告などでご相談がありましたらお気軽にお声かけください。




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