なぜ“まだ元気なうち”に動くべきか
資金ショートは決算の問題ではなく“日々の現金”の問題
資金繰りの相談は、体調でいえば「高熱が出てから病院に行く」ケースが圧倒的に多いのが実情です。
けれど本来は、熱が上がる前――つまりまだ元気なうちに手を打つほど、選べる薬(=資金手段)も、処方(=条件設計)も豊富になります。
なぜなら資金ショートは“赤字だから起きる”のではなく、売上よりも先に現金が出ていく瞬間が増えることで起きるからです。
仕入や人件費が先行し、売掛の回収が後ろにズレれば、決算が黒字でも財布は薄くなります。ここに気づくタイミングが早いほど、対策はやさしく、コストも低く済みます。
早めに動く最大の理由は、銀行の見方が変わるからです。余裕のある時期の相談は「成長や繁忙の前倒しに備える資金」として受け止められます。
結果として、枠の設定、返済期間の長め設計、担保や保証の柔軟さなど、選択肢と自由度が大きく広がります。
逆に、支払いを遅らせ始めたり、カードや家族資金に頼り出した段階では、同じ金額でも「延命資金」に見えやすく、条件は厳しくなりがちです。
「忙しくなってから借りればいい」は、実務では危険です。忙しいときほど現金は先に出るため、のどが渇いてから井戸を掘る羽目になります。
だからこそ、使い道を一言で言えるメモ(何に・いくら・いつ必要か)と、今月・来月の入出金の見取り図、そして手元の借入状況の一覧だけでも整えて、平時に銀行へ“予告相談”しておくのが得策です。
税理士の方にとっても、決算が固まる前に資金設計が見えれば、節税と資金繰りのバランス調整がしやすくなります。
資金繰りは「悪化してから対処」ではなく「悪化させない段取り」が肝心です。
小さな違和感(現金がじわじわ減る、回収が遅れる月が増える、支払いの優先順位の相談が増える)を合図に、まだ元気なうちに一度ご相談ください。
条件の良い資金と、安心して動ける余白は、早い準備から生まれます。

資金ショートになる“前”に出るサイン
3つ以上当てはまったら、平時のうちに相談を。
資金繰りはある日突然悪化するのではなく、じわじわと“前兆”が現れます。放置すると「もう間に合わない」領域に入ってしまうため、予兆の段階で手を打つのがいちばん効きます。まずは、次のチェックリストを“今の自社”に当ててみてください。
- 月末の預金残が毎月わずかに減っている。
売上は伸びているのに現金が減るのは、仕入や人件費が先に出ているサイン。 - 売掛の入金日が遅れがちになった月が増えている。
締め・請求・督促の運用が緩み、キャッシュの戻りが遅延。 - 買掛の支払いを“数日だけ”後ろへ動かすことが常態化。
一度の延伸は応急処置でも、習慣化は危険信号。 - 在庫が増えているのに現金は増えない。
滞留在庫や先仕入れの偏りが、資金を静かに圧迫。 - カード払い・立替経費の比率が高まっている。
資金の出所が分散し、全体像が見えにくくなるタイミング。 - 借入の元金返済が“重い”と感じる月が出始めた。
返済サイクルと入金サイクルのズレが拡大。 - 短期枠(当座・カードローン)が“枠の端”で張り付き。
余白がない状態は、突発支出に耐えられません。 - 税金・社会保険を“次月に回そうか”と一度でも考えた。
発想として出てきた段階で、黄色信号。 - 社内会議で“どの支払いを先にするか”の議題が増えた。
優先順位の議論が増えるのは、息切れの初期症状。
上記のうち3つ以上にチェックが入るなら、まだ余裕がある今こそ動きどきです。銀行に伝える内容はむずかしくなくてOK。
1)使い道を一言で(例:「受注増に備える仕入資金」「設備更新費」)
2)金額と時期を具体化(いつ、いくら必要か)
3)回収の見込みをざっくり(件数・単価・粗利の目安)
税理士の方は、月次の面談時にこのチェックを一緒に行い、“兆し”のうちに銀行面談をセットしてあげると効果的です。
前兆に気づいた瞬間が、最もやさしく・低コストで手当てできるタイミング。ここを逃さないことが、資金ショートを未然に防ぐ最短ルートです。

なぜ“早めに銀行へ”が正解か
平時の相談は、選べる・急げる・条件が良くなる
資金がまだ回っているうちに銀行へ相談する――たったこれだけで、同じ会社・同じ金額でも扱いがまるで変わります。理由はシンプル。
銀行は「お金に困ってからの資金」より、「伸びに備える資金」を好みます。
余裕のある時期の相談は、先手の仕入れ、設備更新、新規出店の準備など、前向きな使い道として捉えられ、審査も落ち着いて進みます。
結果として、
(1)選択肢が増える(期間・返済方法・担保/保証の柔軟性)
(2)スピードが上がる(社内の合意が取りやすい)
(3)条件が良くなる(総コストや使い勝手)が期待できます。
逆に、支払いの延伸やカード頼みが始まってからの相談は、どうしても「延命資金」に見えがちです。審査のハードルは上がり、期間も短く、自由度の低い設計になりやすい。
だからこそ、元気なうちの一報が効くのです。
では、何を持っていけば良いのか。難しい計画書は不要です。A4一枚×三つがあれば十分伝わります。
- 使い道メモ:何に・いくら・いつ必要か(例「受注増に備える先仕入れ◯◯万円、◯月から◯月まで」)。
- 回収の見込み:件数・単価・粗利の目安(過去実績か、内示・契約見込み)。
- 課題と打ち手:在庫圧縮/回収ルールの見直し/固定費の軽量化など、すでに始めていること。
面談の入り口はこれで十分。
「今のうちに枠づくりを進めたい」「必要時期に合わせて実行時期を相談したい」と伝えれば、銀行側も準備がしやすくなります。
ポイントは、良い話だけを並べないこと。
気になっているリスク(需要の変動、立ち上がり遅延、人手の制約)も素直に共有し、「そうなったときの代替策」を一言添えると、受け止められ方が一段と良くなります。
税理士の方にとっても、早めの銀行相談は大きな利点があります。
決算前に資金の方向性が見えれば、節税と手元資金のバランス調整がやりやすく、顧問先の“資金の見通し”を言葉にしてあげられる。
三者面談に同席して、数字の整合だけサポートするだけでも、銀行の安心感は高まります。
まとめると――平時に動く=選べる・急げる・良くなる。
のどが渇いてから井戸は掘れません。まだ体力があるうちに、まずは軽い相談から始めておきましょう。

明日からできる“早期相談”の段取り
薄い資料でOK。矛盾なく、先に出す。
「いずれ相談しよう」は、だいたい“遅い”です。大事なのは軽く・早く・整えて動くこと。むずかしい計画書は不要。
① 30分で下準備(A4×3)
- 資金の使い道メモ
何に/いくら/いつ必要かを一行ずつ。例)「出店準備金:内装・什器◯◯万円、◯月中」 - 直近の入出金予定
今月〜来月の“主要な入金と支払い”だけを日付順に。細かい金額は概算でOK。 - 借入一覧
金融機関名/残高/毎月返済/満期(+あれば担保・保証)。表記ゆれ・数字の食い違いゼロがコツ。
② 面談の進め方(段取りが肝)
- 冒頭5分=結論:「◯月までに◯◯万円、使い道は□□、回収はこの見込み」
- 10分=資料説明:A4×3をなぞるだけ。良い面と懸念点・代替案も一言ずつ。
- 最後5分=宿題と日程:双方の次アクションを決め、次回の日程をその場で仮押さえ。
③ 税理士さんの力を借りる
月次打合せで数字整合をチェックしてもらい、三者面談に同席依頼を。銀行の安心度が上がり、話が早くなります。
④ よくあるNG
- 申込書・月次・一覧で数字がバラバラ
- 良い話だけ並べてリスクや代替案がない
- 面談直前に新規カード借入やリボ化で毎月返済が増える
- 支払い延伸を隠す/後出しにする
早期相談は“余裕を買う行為”です。 のどが渇く前に井戸を掘る——それだけで選べる条件とスピードは大きく変わります。
外部CFOとして、雛形配布/整合チェック/面談台本の作成や同席まで伴走します。
まずはお問い合わせから「早期相談の段取り希望」とだけ送ってください。最短の一歩を、いま一緒に踏み出しましょう。
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