1. 結論:他行借入があっても融資は可能
審査は“総合評価”。今の財務・計画・返済実績で勝負する
最初に結論です。他社借入があっても銀行融資は通ります。
否決の理由は「借入があること」そのものではなく、返済原資の弱さや計画の曖昧さ、管理の粗さにあります。銀行は次の観点を“総合評価”します。
- 返済原資:利益+減価償却+運転資本の回転(在庫・売掛・買掛)。
- 資金使途の妥当性:何に使い、いつキャッシュに変わるか。
- 借入構造:金利・満期・担保・保証・返済方法(元金/元利)。
- 返済実績と管理体制:遅延の有無、月次・週次の資金管理が回っているか。
はじめの一歩は、この3点の“見える化”です。
- 資金繰り表:。資金の“息切れ”を早期発見。
- 借入一覧:銀行名/残高/金利/返済額/満期/担保・保証を横並びに。
- 資金使途&回収KPI:何に・いくら・いつまでに、件数/率/金額で回収するかを一枚で。
ここまで整えば、面談は“お願い”から提案の対話に変わります。
注意点は3つだけ。隠さない(延滞は背景と是正策をセットで)/金利だけで選ばない(総コストと使い勝手で)/小口をむやみに増やさない。これで「他社借入=不利」という思い込みは解けるはずです。

2. 審査で必ずチェックされる「4つの中身」
種類・件数・残高・返済履歴――“並べ方”で印象は変わる
他行借入があるとき、銀行がまず見るのは①種類 ②件数 ③残高 ④返済履歴の4点です。ここを“整えて見せる”だけで評価はぐっと前向きになります。
① 種類(何のための借入か)
運転資金・設備資金・短期枠(当座貸越・手形)など、目的別に仕分けしましょう。運転と設備が混在していると「使い方が曖昧」に見えます。各借入に資金使途の一言メモ(例:在庫先仕入れ/〇号機更新)を添えるとなお良いです。
② 件数(どこから何本か)
本数が多いほど管理の粗さを疑われがち。目的が同じ小口が散らばっていれば、一本化や借換えの方針も一緒に提示。将来的に期日分散をどう作るかを書けると好印象です。
③ 残高(いくら残っているか)
行名/商品名/当初借入額/現在残高/金利/毎月返済額/返済方法(元金・元利)/満期/担保・保証――を横並びの1表に集約。
見やすさは信用です。満期が同時期に集中する箇所は色付けし、対策(借換・期間延長)案を添えます。
④ 返済履歴(遅延の有無)
直近12か月の遅延ゼロであることが望ましいですが、もし遅延があっても原因・是正・再発防止を3行で説明すればマイナスは半減します。リスケ中の場合は、計画どおり運用できている実績を数字で。
よくあるNG
・金利だけを強調して満期や担保の情報が欠落/小口が乱立して目的が不明/延滞を伏せる(後で発覚すると致命的)。

3. マイナスをプラスに変える“返済実績”の見せ方
遅延ゼロの継続・借換の整流化・高金利脱出のロードマップ
「他社にも借入がある=不利」と思いがちですが、返済実績の“見せ方”次第で評価は逆転します。銀行が安心するのは、①約束を守れている、②今後はもっと管理しやすくなる、③総コストを下げる筋道がある――この3つが揃ったとき。やさしく整え方をまとめます。
① 遅延ゼロを“記録”で示す
直近12か月の返済日と入金実績を1ページのカレンダー表に。○=期日どおり、△=当日入金、×=遅延(理由メモ付)。×がある場合も、原因→是正→再発防止を3行で添えれば誠実さが伝わります。
例:「入金サイト延伸で×(4/25)。与信見直しと前受金の導入で是正、以降○継続(5〜9月)。」
② 借換の“整流化”で管理を軽くする
小口が散らばっているほど、返済日が重なり資金繰りがブレます。同目的の借入は一本化、返済日は月初/月中/月末のいずれかに寄せ、満期は四半期ごとに分散。方式は原則元金均等(元利より残高の減りが早く、将来の金利負担が下がる)。この設計図を借入一覧の右端に“移行後イメージ”として並べておくと見やすい。
③ 高金利脱出のロードマップ
“今すぐ”全てを下げられなくても、段階計画があれば前進です。
- 3ヵ月くらいの週次資金繰り計画表で資金の山谷を可視化(不足週と金額)。
- 総コスト表で金利・保証料・手数料・担保条件を横並び比較。
- 既存行Aに一本化+返済期間の見直しを提案。
- 改善実績を持って他行Bへセカンド行を開拓(条件相見積もり)。
- 実行後は半期の予告面談で効果を報告し、次の引下げ・プロパー化へ。
面談でそのまま使える一言
「小口を一本化し、返済日は月末に集約、満期は四半期分散に変更予定です。総コストは年△△万円削減見込み。御行では期間見直しと金利条件をご相談させてください。」
チェックリスト(準備は3枚だけ)
- 返済カレンダー1枚(○△×+メモ)
- 借入一覧1枚(現状/移行後イメージ)
- 総コスト比較1枚(金利+保証料+手数料+担保条件)
――“返済できている”を見えるかたちにすると、他社借入は弱点ではなく信用の証拠になります。

4. 今日から整える“通る準備”3点セット
資金繰り表/借入一覧/資金使途&回収KPIで「安心材料」をそろえる
融資は“お願い”ではなく準備の質で決まります。難しい分析は不要。まずは次の三点セットをA4でそろえるだけで、面談の納得度が一段上がります。
①資金繰り計画表 — 資金の“息づかい”を週次で見せる
つくり方(15分)
- 横軸を「今週+先12週」、縦軸を「入金:売掛回収・現金売上/出金:仕入・給与・家賃・返済・税金」。
- 右端に週末の手元資金残を表示。
- 確定=緑、見込み=黄、未確定=赤で色分け。
- 毎週月曜に10分更新し、残高が薄い週には対策メモ(支払調整/在庫圧縮/短期枠活用など)を一行で。
効果:月次では見えない1〜3週間先の詰まりを早期に発見。銀行は“見えている会社”に安心します。
② 借入一覧—全体像を1表で“整理している会社”に
項目:金融機関/商品名/目的(運転・設備)/残高/金利/毎月返済/返済方法(元金・元利)/満期/担保・保証/備考(使途一言)。
工夫:
- 満期の山は黄色マーカー。対策(借換・期間延長・一本化)を右端にメモ。
- 同目的の小口が散らばっていれば、整流化の方針(返済日の集約・四半期分散)を併記。
- 下段に月間返済合計を入れて、返済原資(利益+償却)との釣り合いを示せるとベター。
効果:数字を盛る必要はありません。見やすさ=信用です。
③ 資金使途&回収KPI—“何に・いつ回収”を一枚で
構成(A4一枚)
- 背景:なぜ今(需要増・更新・受注獲得 等)
- 目的:何を達成(生産能力+◯%、売上+◯円/月 など)
- 使途内訳:設備◯◯万円/広告◯◯万円/人件費立上◯◯万円
- 回収KPI:新規◯件→成約◯件→売上◯円、回収◯か月
- リスク&代替:需要80%着地時は販路B追加、立上遅延時は可変費削減…
- 体制&期限:担当・マイルストーン(いつ、誰が)
効果:希望でなく数字の道筋で語れるため、面談が“提案の対話”に変わります。
三点の束ね方(事前送付パック2〜4ページ)
- 13週CF(1枚)
- 借入一覧(1枚)
- 資金使途&回収KPI(1枚)
必要に応じて「過去12か月の売上・粗利・人件費グラフ(1枚)」を添付。
面談の流れは、結論5分 → 質疑15分 → 双方の宿題合意10分。分厚い資料より薄くて更新され続ける資料が評価されます。
つまずきポイントと回避策
- 金額だけが独り歩き:使途と回収KPIが未設定 → A4一枚を先に。
- データが散逸:Excelを週グリッドに統一、置き場は1つ(SSOT)。
- 金利だけ比較:保証料・手数料・担保条件を含む総コストで並べる。
- 満期が同時期に集中:借換で四半期分散を設計。
今日からの3ステップ(30分で着手)
- 入出金台帳を週区切りに貼り替え、今週+12週の13週CFを作る。
- 既存借入を棚卸し、借入一覧を1表で完成。満期の山に色を付ける。
- 資金使途&回収KPIをA4一枚に。数値が曖昧でも“仮置き”でOK。面談までに精度を上げれば十分です。

5. 申告の鉄則とNG集
虚偽申告は一発アウト——信用情報の自己開示と“記載統一”で守る評価
他行借入があるときほど、申告の正確さが審査の分かれ目です。理由はシンプル。
①銀行は必ず照会する(社内データ・保証協会・信用情報)、
②提出書類の数字の食い違いは管理能力への疑義
③虚偽や隠しは否決だけでなく関係悪化に直結。
ですから、“良く見せる”ではなく矛盾をゼロにすることが最優先です。
申告の鉄則(5か条)
- 同一数字の原則
申込書・決算書・月次試算表・13週CF・借入一覧で、借入残高・毎月返済額・満期を一致させます。端数処理や“概算”は避け、表の最下段に月間返済合計を明記。 - “借入”の定義を広めに
当座貸越・カードローン・分割・役員個人の連帯保証・個人名義の事業用借入も対象に含める前提で棚卸し。後出しはすべてマイナスです。 - 延滞やリスケは先出し+是正策
「いつ、なぜ、どう是正したか」を3行で。例:〈4月:大口回収遅延→×〉〈与信ルール改定・前受金導入〉〈以降6か月○継続〉。 - 税・社保は正常納付が原則
税金の未納はNGです。特に初回の融資申し込みの際は納税証明書の提出を求められます。社保に関しても同様です。 - 使途は“回収KPIつき”で一枚化
何に・いくら・いつ回収(件数/率/金額)か。希望ではなく数字の道筋で。
信用情報の自己チェック(かんたん手順)
- 代表者個人の信用情報を自己開示(各機関のWeb申請でOK)。内容を確認し、社内の借入一覧と表記を統一。
- 会社側は、金融機関に提出した直近の借入明細・保証協会の利用状況を営業担当と突き合わせ。
- 名寄せ(略称→正式名称、商品名の統一)、担保・保証の有無、返済方法(元金/元利)の記載を揃えます。
具体:記載統一のチェックポイント
- 行名・商品名の表記ブレ(例:信金名の略称)を修正
- 満期の山に色付け、右端に「対策(借換・期間延長・分散)」のメモ
- 手数料・保証料は総コスト比較表に集約(申込書と混在させない)
- 13週CFの返済週と借入一覧の返済日を一致させる
- 「借換予定」は条件・時期・対象金額まで具体化
よくあるNG(避けたい地雷)
- 申込後に発覚する未申告の小口(カード・割賦・個人借入)
- 面談前週の新規借入やリボ化で返済額が増えている
- 目的外使用の疑念が残る(使途メモがない/証憑が散逸)
- 月次と申込書の数字が合わない(版管理ミス)
- 質問に対し「確認しておきます」で終わる(回答期限がない)
申告前の最終チェックリスト
- 申込書・13週CF・借入一覧の数字が一致
- 信用情報の自己開示済み(表記を統一)
- 返済カレンダー(直近12か月○△×)を1枚で添付
- 資金使途&回収KPIをA4一枚で
- 税・社保の納税証明書か、納付が確認できるエビデンスを用意
まとめ
“隠す・濁す”より、整えて先出しが最強です。矛盾ゼロの資料は、それだけで「管理できる会社」の強い証拠になります。
但し!
高金利の信販系ビジネスローンなどは、利用があるというだけでNGが出る金融機関や、借換の対象にはできない場合もあります。借換とする場合はあくまで運転資金の範囲内として見なされますので注意が必要です。
「どのように金融機関に融資相談したらいいのか分からない」「こんな情報を出したら融資を断られてしまうのではないか」などのお悩みがあればお気軽にご相談ください。
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