銀行は「決算書をそのまま信じていない」という現実
多くの経営者は「決算書を提出すれば、銀行はその数字を信じて判断してくれる」と考えています。ところが実際の現場では、銀行は決算書の数字を“鵜呑み”にはしていません。
むしろ、「この数字は本当に正しいのか」「実態を正確に反映しているのか」という疑いの目を向けています。
なぜなら、決算書には経営者や会計処理のさじ加減が少なからず入り込む余地があるからです。
特に「現金」や「棚卸資産」といった項目は、帳簿上での処理や申告方法によって数値が変わりやすく、実態との乖離が生まれやすい科目として知られています。銀行側もその点を熟知しているため、決算書を手に取った瞬間から「本当にこの数字は存在するのか?」と検証を始めるのです。
実際に、ある経営者が融資の相談をした際に「現金残高が多すぎるので、金庫の写真を提出してください」と銀行から求められたことがありました。
経営者にとっては「まさか写真まで?」と感じるかもしれませんが、それほど銀行は決算書の数字を疑ってかかるのです。
もう一つの代表例が「棚卸資産」です。
これも実態の確認が難しいため、銀行は決算書に記載されている数字を額面通りには受け取りません。「自己申告だから実際より多めに計上しているのではないか」と警戒し、場合によっては裏付け資料の提出を求めます。
ここで理解しておきたいのは、銀行が「疑い深い存在」だからというよりも、「貸したお金を確実に回収する」という使命を持っているからこそ慎重にならざるを得ない、ということです。
つまり、銀行が疑っているのは経営者の誠実さではなく、数字が持つ不確実性そのものなのです。
したがって、経営者が取るべき姿勢は「疑われないように備えること」です。決算書に書かれた数字を裏付ける資料を整え、銀行に安心材料を示す。
それが、資金調達を有利に進めるための第一歩になるのです。

「現金」勘定に潜む誤解とリスク
決算書における「現金」勘定は、銀行から最も疑いの目を向けられやすい項目です。というのも、現代の企業活動では多くの支払いや受取が振込やネットバンキングで行われるのが一般的であり、帳簿上で現金残高が不自然に多いと「実態とかけ離れているのでは?」と疑念を抱かれやすいからです。
特に中小企業においては、売上の入金が現金であったり、日々の支払いに現金を用いるケースがまだ存在します。
しかし、残高として「過度に多い現金」が計上されていると、銀行の視点では「粉飾しているのではないか」と受け止められるリスクが高まります。
実際、銀行から「金庫の中にある現金の写真を提出してください」「金庫の現金を見せて下さい」と求められた経営者の事例もあります。
経営者からすると驚きの要請ですが、銀行は融資判断のために現物確認まで視野に入れているのです。
さらに厄介なのは、こうした疑念が一度生まれると、その後の取引全体に影響することです。翌期以降も帳簿上で「高額な現金残高」が続いていると、銀行は「改善がなされていない」と判断し、会社全体の資金管理に不安を覚えます。
その結果、融資の条件が厳しくなったり、新規借入がスムーズに進まなくなる恐れもあります。
では、どう対応すべきか。結論はシンプルで、「会社の資金は現金ではなく預金口座に集約する」ことです。現金は持ち歩きやすく、会計処理上も曖昧になりやすいため、信頼性が下がります。
一方で銀行口座に入っていれば、通帳や取引明細という裏付けが自動的に存在し、銀行担当者にとっても安心材料になります。
つまり、現金勘定に関しては
「実際の保有額を減らす」
「不自然な残高を残さない」
「預金に集約する」
という3点が鉄則です。これにより粉飾を疑われるリスクを避け、銀行に「管理の行き届いた会社」という印象を与えることができるのです。

「棚卸資産」が疑われるワケと信頼を得る工夫
棚卸資産は、銀行が特に注意深く見る科目のひとつです。なぜなら、その実態を外部から確認するのが難しく、会社の自己申告に依存している部分が大きいからです。もし過大に計上されていると、決算書上の利益や純資産が実態よりも大きく見えてしまい、粉飾を疑われる典型的なポイントとなります。
たとえば、決算書に「棚卸資産:会社保存」と記載され、別紙で簡易的に明細が添付されているだけのケース。
銀行から見れば「本当に存在しているのか」「実際には売れ残って価値が低下していないか」といった疑問が残ります。
その結果、在庫の金額がそのまま信用されず、評価を下げられてしまう可能性があるのです。
こうしたリスクを避けるためには、裏付け資料をできる限り整えて提出することが重要です。仕入れ明細や在庫明細を細かく作成し、取引先や商品の内訳が明確に分かる形で示すこと。これにより「数字が自己申告だけにとどまらず、客観的な証拠がある」と銀行に安心感を与えることができます。
また、棚卸資産は「多ければ良い」というものではありません。過剰在庫はキャッシュフローを圧迫し、銀行からも「資金効率が悪い」と評価されます。逆に、計画的に在庫を減らし、棚卸資産回転率を改善していれば、「効率的に資産を活用している」とプラス評価につながります。
つまり、棚卸資産の健全な管理は財務数値の改善だけでなく、銀行に対する経営力のアピールにもなるのです。
経営者ができることは
①在庫の妥当性を説明できる体制を整えること
②余剰在庫を抱え込まない仕組みをつくること
③裏付け資料を準備して「透明性」を示すこと。
この3つを実行すれば、銀行の目に「棚卸資産が不透明なリスク」ではなく「効率的に管理された資産」と映ります。
棚卸資産は単なる会計上の数字ではなく、経営者の姿勢そのものを反映する項目です。誠実な管理と分かりやすい説明が、融資条件を大きく左右することを覚えておきましょう。

銀行が本当に求めている“信用される財務管理”
銀行が企業に求めているのは「粉飾のない数字」だけではありません。
むしろ重視されているのは、財務の透明性と再現性、すなわち「信用できる財務管理」が行われているかどうかです。なぜなら、銀行にとって最大のリスクは「融資したお金が返ってこないこと」。
そのリスクを減らすために、数字そのものよりも「数字をどう管理しているか」「継続的に信頼できる運営ができているか」が審査の本質になるのです。
銀行が安心する財務管理の3要素
1.整った帳簿と裏付け資料
決算書だけでなく、月次試算表や資金繰り表が整備されているか。そして「現金残高」「棚卸資産」「売掛債権」などの裏付け資料を提示できるか。書類が揃っているだけで、「数字を管理できている会社」という印象を与えます。
2.経営者が数字を理解している姿勢
銀行担当者と面談したとき、経営者が自社の数字を把握しているかどうかで信頼度は大きく変わります。単に税理士任せではなく、「売上減の理由はこれ」「在庫が増えたのは繁忙期を見越した仕入れ」と自分の言葉で説明できることが大切です。
3.改善・成長に向けた意思表示
銀行は「悪化した数字そのもの」よりも、「それに対してどう取り組んでいるか」を見ています。課題があるなら改善策を、強みがあるなら成長戦略を。経営者が未来を語れるかどうかが、融資判断を左右します。
管理している会社”と思わせる工夫
たとえ小規模な企業でも、簡単な組織図や役割分担表を用意するだけで効果は大きいです。「誰が経理を見ているのか」「誰が在庫を管理しているのか」が明確になるだけで、銀行に安心感を与えられます。
また、財務資料は「隠さず、整理して出す」ことが信頼獲得の近道です。銀行は数字の良し悪しだけでなく、「誠実に管理している姿勢」を評価します。逆に、説明不足や資料不備があると、それだけで「この会社は信用できない」と受け止められかねません。
つまり、融資をスムーズに進めるためには「良い数字を出す」以上に「数字を管理できる仕組みを示す」ことが重要なのです。
まとめ 融資を引き寄せるのは“数字の見せ方”
銀行にとって、決算書は企業を評価するための最重要資料です。しかし、それはあくまで「入り口」に過ぎません。銀行が本当に見ているのは、そこに書かれた数字の「背景」と「信頼性」です。
数字がどんなに立派でも、その裏付けが弱ければ「粉飾かもしれない」と疑念を抱かれ、逆に課題があっても理由と改善策が明確なら「誠実な会社」と評価されるのです。
特に「現金」と「棚卸資産」という科目は、銀行が疑いの目を向けやすい代表例です。現金残高が過剰であれば「本当に存在するのか?」と不安を持たれ、棚卸資産が多すぎれば「実態よりも大きく見せているのではないか」と懐疑的に見られます。つまり、融資を引き寄せるか遠ざけるかは、数字そのものではなく「どう説明し、どう見せるか」にかかっているのです。

ここで経営者が心得ておきたいのは、以下の3つの視点
• 透明性を示す:裏付け資料を整え、数字を客観的に証明する。
• 経営者の言葉で語る:数字の変動理由や今後の見通しを、自分の言葉で説明できる。
• 未来を描く:改善策や成長戦略を提示し、「この会社に貸せば返ってくる」と思わせる。
銀行は「貸したい会社」を選んでいます。その判断材料は、単なる数字の良し悪しではなく「信用できる財務管理」と「将来に向けた意思表示」です。
だからこそ、決算報告を単なる義務として終わらせず、融資を有利に進めるためのプレゼンの場と位置付けることが重要なのです。
当社では、外部CFOとして決算報告の資料作成や銀行同席支援を行っています。「説明に自信がない」「何を準備すればよいか分からない」という方は、ぜひ一度ご相談ください。数字の“見せ方”を変えるだけで、融資条件や銀行との関係性は大きく変わります。
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