【1. PL改善の本質とは? 〜結局は「売上」か「経費」か〜】
経営者が財務数値を見て最初に意識するのは「利益が出ているかどうか」です。そしてその判断材料となるのが、損益計算書(Profit & Loss statement=PL)です。売上高、原価、販管費、営業利益、経常利益など、企業の収益力を表す情報が詰まっているPLですが、突き詰めると「売上を増やす」か「経費を減らす」かの二択に集約されます。
まず売上。経営の根幹にある数字であり、企業の成長を図る最もポジティブなアプローチです。しかし売上の増加は必ずしも即効性があるとは限らず、新商品開発やプロモーション展開、営業体制の再構築など、時間やコストをかけてようやく成果に繋がるというケースも少なくありません。
一方で経費削減は即効性があります。例えば、外注費の見直しや間接部門の効率化、広告宣伝費の適正化、在庫管理の改善などに取り組めば、短期的にも利益率の改善が見込めます。ただし、過剰なコストカットは人材流出やサービス品質の低下といった“副作用”をもたらすリスクも孕んでいます。
またPLの積み上げによって形成されるのが、貸借対照表(Balance Sheet=BS)です。つまり、売上を着実に伸ばし、経費を適切にコントロールして利益を出すという基本の動きが、企業の資産や純資産の健全性を支えているのです。PL改善は短期の収益力、BSは中長期の安定性を意味しますが、その原点に立ち返れば、やはりPL改善が最初の鍵となるのです。
経営者にとって、「売上を上げる」「経費を下げる」は口で言うのは簡単でも、実行となると一筋縄ではいきません。ただし、この2軸から逃げずに、数字を正確に把握し、細分化・分析し、打ち手を練っていくことこそが、堅実な企業経営への第一歩なのです。

【2. 売上アップ戦略:どこに力を入れるべきか?】
PL改善の最初の打ち手として真っ先に注目されるのが「売上アップ」です。売上が増えれば固定費の吸収力が高まり、利益額・利益率ともに向上します。とはいえ「とにかく売上を伸ばせ」という精神論だけでは成果に繋がりません。どこに力を入れるのか、その優先順位と投資効果の見極めが欠かせません。
売上アップの戦略は、以下のように大きく分けられます。
- 新サービス・新商品のリリース
- 既存サービスの改善と単価アップ
- プロモーション強化(広告・SNSなど)
- 販路拡大・新市場開拓
- リピート促進・既存顧客深耕
例えば「新サービスをリリースする」というのは魅力的ですが、開発に時間もコストもかかるため、短期での売上改善には不向きです。プロモーション強化も同様で、SNS広告やWEBマーケティングなどはすぐに成果が出るわけではなく、中長期での仕掛けとして考えるべきです。
そこで注目すべきは、今ある商品・サービスをどのように磨き、どう売るかという視点です。商品ラインナップを再編したり、ターゲット層を見直すだけでも売上構造は変化します。現場で何が売れていて、何が滞っているのかをデータで捉えることが重要です。
また、販売量を増やすという単純な戦略もあります。たとえば飲食店や小売業であれば、営業時間を延ばしたり、ピークタイムの回転率を上げることでも売上は上がります。ただし、これには原価率が上がったり、オペレーションが過剰になったりといった副作用もあるため、利益率とのバランスを見ながら実行する必要があります。
「利益率が多少下がっても販売量を増やすことでキャッシュフローを確保する」というのは、有効な判断軸の一つです。資金繰りを安定させながら、少しずつ収益構造を強化していくアプローチです。
売上を伸ばすためにやるべきことは無数にありますが、焦点を絞ることが大切です。「何に投資すれば、最も効率よく売上を伸ばせるか」「どこが現状のボトルネックになっているか」を明確にするためには、数値に基づいた現状把握と仮説立て、そして検証の繰り返しが必要不可欠です。
経営者はこの売上アップ戦略の“指揮者”であり、“旗振り役”です。最前線で動くスタッフ任せにするのではなく、売上という数字の背景を分析し、戦略を練り、動かす役割を担うべき存在なのです。

【3. 経費削減のリアル:どこまで削れる?どこから削らない?】
PL改善において、もう一つの大きなアプローチが「経費削減」です。売上アップには時間がかかる一方で、経費の見直しは即効性があります。とはいえ、ただ“無理に削る”というスタンスは持続可能な経営に逆効果をもたらすこともあります。重要なのは「どこまで削れるのか」「どこは削ってはいけないのか」を見極める力です。
経費は大きく分けると以下の2つに分類できます。
- 原価(売上原価)
- 販管費(販売費および一般管理費)
原価の見直しは、直接的に粗利率の改善に繋がります。たとえば飲食業であれば、仕入れルートの再検討、原材料の歩留まり改善、メニューの見直しなどが効果的です。ただし、安易に仕入れ価格を下げようとすると品質に影響が出るため、「お客様が離れない範囲での調整」が鍵になります。
販管費は、広告費、人件費、家賃、水道光熱費、通信費など多岐にわたります。これらは削れば削るほど利益は一時的に増えるかもしれませんが、長期的にみて「必要な投資」まで削ってしまっては元も子もありません。たとえば広告費をゼロにすれば当然集客は鈍化しますし、スタッフの教育研修費を削れば生産性の向上も見込めなくなります。
では、どう削るか。
ポイントは、「売上に対する経費率」の推移を時系列で追い、異常値や傾向のズレを見つけることです。月ごと、四半期ごとに変化を追えば、異常なコストが浮かび上がってくることがあります。さらに、部門や店舗が複数ある企業の場合は、各部門の経費率を横比較することで、どこに無駄が潜んでいるかを炙り出すことができます。
たとえば、同じ売上規模の店舗で「A店は広告費率が10%、B店は5%」となっていれば、どちらかが非効率な運用になっている可能性があります。この比較により、「費用対効果が出ている支出」と「ただの惰性支出」が明確になるのです。
また、経費の中には「削減できるけど削らない方がよい」項目もあります。それが将来の投資や会社の価値を高める支出です。たとえば「採用費」や「社員の福利厚生費」などは、一見するとすぐに削れそうですが、中長期での採用難や定着率の悪化に直結するリスクがあります。
経費は「切る」ではなく「磨く」ものです。必要な支出は維持しつつ、無駄を見極め、スリムで機能的な経費構造を目指すことが、健全なPL改善には不可欠です。
経費削減を単なるコストカットと捉えるのではなく、“利益体質を作るための設計見直し”と考えることで、会社全体の数字の質が変わっていきます。

【4. 経費率分析のすすめ:時系列・比較分析の効果】
PL(損益計算書)の改善を本気で行うには、単に「経費を減らす」「売上を増やす」という表層的な発想から、数字の中身を比較・分析する習慣が不可欠です。特に中小企業にとって有効なのが、経費率(売上に対する経費の割合)を時系列で見ていくことと、部門別・店舗別での比較です。
時系列での経費率分析
まず、時系列分析とは、月次や年次などの単位で「売上に対する各経費の割合」を定点観測し、変動の傾向を掴む作業です。
たとえば、
- 広告費率がなぜか5月だけ突出している
- 人件費率が年末に向けて毎年上がっている
- 原価率がここ数ヶ月でじわじわ上昇している
など、グラフ化すれば“見えなかった傾向”が可視化され、改善ポイントが明確になります。
数字は嘘をつきません。ただ、見ようとしないと、どんな「違和感」も見逃されてしまうのです。
比較分析の重要性
次に比較分析。複数の部門や店舗を持つ企業であれば、各拠点の経費率を横並びで比較することで「改善余地」が見えてきます。
たとえば、
- A店の人件費率は15%、B店は25% → なぜ10%も差が?
- 本社の通信費は月30万円、他は5万円 → どこにコストが集中している?
こうした差異に目を向け、「なぜ?」を突き詰める文化を社内に浸透させることで、PLの体質そのものが変わっていきます。
もちろん、比較の際には“背景”も考慮する必要があります。同じ販管費でも、立地、営業時間、売上構成が違えば単純比較では判断できないこともあります。ただ、それでも「差異がある理由」を言語化できる企業は強い。なぜならその理由が、次の経営判断に活かせるからです。
比率の平準化で利益率を高める
比較の結果、優秀な拠点や部門の経費構造が判明すれば、それを全社的な標準として「平準化」を図ることができます。
例えば、ある店舗ではパートスタッフのシフト組みが非常に効率的で人件費率が低い。それを別店舗にも導入してみる。広告宣伝の反応率が高い媒体を、全体に展開してみる。
成功事例の共有と転用こそが、会社全体の利益率を底上げする鍵になります。

【5. 経営者が注力すべきは売上戦略、経費管理はCFOが担う】
企業の成長には「攻め」と「守り」のバランスが不可欠です。そして、この両輪をどう分担するかによって、経営のスピードと精度が変わります。
結論から言えば、経営者が担うべきは「売上をどう上げるか」という戦略と決断であり、経費の細部や管理はCFOなどの専門家に任せるべきです。
経営者は「売上」をつくる人
売上は企業のエンジンです。売上がなければ利益もキャッシュも生まれません。
経営者が考えるべきことは、
- どの市場で戦うか?
- 顧客に何を届けるか?
- どうやって知ってもらうか?
- 誰に営業させるか?
- 売上の構成比はこれで良いのか?
など、全体像を俯瞰しながら売上戦略を描き、意思決定していくことです。
中には、経費の細かいところまで気になって仕方がない、という経営者もいますが、それはリソースの無駄遣いです。
あなたの時給は1万円以上の価値があるのに、それを1時間かけて「消耗品費が5,000円高い理由」を探しているようでは、本末転倒です。
「経営者が数字に弱いとダメ」とは限らない
よく「数字に強くないと経営はできない」と言われますが、私はそうは思いません。
数字がわからない経営者は、「数字のプロ」を味方につければいいのです。
むしろ問題なのは、「数字がわからないまま放置していること」であり、改善や判断の材料を持たずに感覚で経営してしまうことです。

【6.まとめ CFOや右腕と二人三脚で「経営管理体制」を整える】
ここで必要になるのが、「経費やキャッシュフロー管理を任せられる右腕=CFO(またはそれに準ずる人材)」の存在です。
CFOは、
- 経費率やキャッシュフローの管理
- 借入や資金調達の設計
- 原価率・粗利率・営業利益率の監視
- 必要な投資の見極めと実行管理
など、いわば経営の守りを担う専門職です。
中小企業にとっては、常勤CFOを雇うのは現実的でないケースもありますが、「外部CFO」や「顧問型支援」で十分補えます。
中小零細企業にとってはそこまで必要性を感じていない場合も多々ありますが、実は中小零細企業こそ必要な場合が多いのです。
この役割分担が明確になれば、経営者は「考える時間」「動く時間」が増え、会社全体にスピード感が生まれます。
売上の戦略は経営者が描き、数字の設計や管理はCFOが担う。
この役割の明確化こそが、企業の進化を支える最もシンプルな方法なのです。
外部CFO | LIFE CREATE サービス内容についてはこちらをご覧ください。
コメント