銀行からの融資を受ける際、「信用格付」がどれだけ重視されているかをご存知でしょうか? 中小企業の資金調達において、信用格付は“見えない評価”である一方、実際には融資可否や金利条件に大きく影響します。しかも、その評価の根拠となるのは、365日のうちたった1日=決算日の数字です。
この記事では、銀行がどこを見て格付を決めているのか、そして決算前に経営者が取るべき具体的なアクションを、分かりやすく解説します。

1. 銀行が注目する「信用格付」とは?
信用格付とは、銀行が融資先の企業に対して行う評価指標です。これにより、以下が決定されます。
- 今後の融資を取り上げるかどうか
- 金利水準や返済条件
- 融資においてプロパーでも対応可能か、保証協会を使うか否か
この格付はスコア方式で運用されており、主な根拠は決算書です。特に貸借対照表(BS)の健全性や、利益の安定性が重視されます。
つまり、「数字の内容」次第で、同じ経営内容でも格付ランクが上下し、結果として調達コストや借入枠に差が生まれるのです。
2. 決算書で重視される3つの指標
銀行が決算書を見る際、特に注目しているのは以下の3つの財務指標です。
(1) 当座比率(短期支払い能力)
計算式: (流動資産-棚卸資産)÷ 流動負債 × 100
- 100%以上が理想
- 現預金や売掛金など、すぐに現金化できる資産が多いほど評価が高くなります
(2) 自己資本比率(財務の安定性)
計算式: 自己資本 ÷ 総資本 × 100
- 30%以上が望ましい
- 借入依存ではなく、自社の体力で経営しているかを判断されます
(3) 経常利益率(安定的な利益創出力)
計算式: 経常利益 ÷ 売上高 × 100
- 黒字経営を維持できているかを評価
- 安定した利益は、借入金の返済能力に直結する
これらの数値が悪化すると、格付ランクが下がり、以下のような影響が出る可能性があります:
- 金利が上がる
- 保証協会の利用が必須になる
- 借入枠が縮小される
3. 決算前にやっておきたい5つの対策
(1) 棚卸資産の圧縮
過剰在庫は、キャッシュフローを圧迫し、BS上でもマイナス評価の要因になります。
具体策:
- 不良在庫を処分し、棚卸資産を圧縮
- 決算直前の仕入れを控えたり、請求を次月にしてもらうなど調整して在庫水準を抑える
- 棚卸資産回転率を高める意識を持つ
(2) 売掛金の回収強化
売掛金が多いと、「現金化できていない」と見なされ、評価が下がります。
具体策:
- 取引先への早期回収を交渉
- 回収期限の短縮や、早期回収インセンティブの導入
- 現金売上の比率を上げられないか検討する
(3) 買掛金・未払金の支払時期を見直す
決算日前に支払いすぎると、流動資産が減り、当座比率が低下します。
具体策:
- 仕入先と相談し、支払期限を決算日以降に延長
- 支払サイトの見直しにより、資金効率を改善
(4) 代表者貸付金の解消
「社長が会社からお金を借りている=会社の資金管理が甘い」と評価され、格付を大きく落とす要因となります。
具体策:
- 決算日だけでも一時的にでも返済する
- 個人資産や役員報酬、配当などを活用して減額する
- 長期的には貸付が生じないよう資金の流れを見直す
(5) 赤字決算の回避と黒字確保
1期赤字になったからといって即座に融資NGになるわけではありませんが、2期連続赤字は致命的です。
具体策:
- 一時的な販管費圧縮や、減価償却費の調整
- 収益認識基準を活用し、売上の前倒し・後倒しを検討
4. 信用格付の本当の影響力と注意点
信用格付は、次の1年間の融資取引に大きな影響を及ぼします。
- 新規融資に制限がかかったり不利な条件になる
- 融資金利の引き上げや保証料率の上昇などコスト面への波及
- 条件変更(リスケ)交渉が不利になる
また、「格付が下がってから相談に来られても、できることが限られている」というのが銀行担当者の本音です。だからこそ、決算が確定する前に、数字を整えておくことが欠かせません。
よくある誤解として、「月次試算表を毎月提出しているから評価は変わるだろう」と考える方がいますが、格付は“決算書の数字”が絶対評価です。試算表では評価が変動することは基本的にありません。
期中に数字を持ち直しても、「決算書が出てから検討します」と担当者から言われた経験は少なからずあるのではないでしょうか?
5. まとめ
信用格付は、銀行融資の条件を左右する大きな要因であり、その評価の中心となるのは決算書です。特に貸借対照表における
- 当座比率
- 自己資本比率
- 経常収支比率
の3つが重視されます。
決算日前の戦略的な対応として、
- 棚卸資産の整理
- 売掛金の回収
- 買掛金の調整
- 代表者貸付金の解消
- 最低限の黒字確保
といった対策が有効です。
「たった1日分の数字」で格付が変わる以上、決算対策は経営戦略の一部です。逆を言えば、この一日だけでも調整ができれば銀行評価は何とかなるということなのです。資金調達を有利に進め、銀行との良好な関係を築くためにも、早めに財務を見直すことをお勧めします。
財務改善・資金調達でお悩みの経営者様は、当社までお気軽にご相談ください。
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